心のこと…

「医科心理学」の知識を遊ぶ

こぼれ話;男はなぜマスターベーションをするのか?

  長々と続けてきた進化心理学の話はこの辺で一旦終了にして、つぎの「心」の解剖・生理の話に入っていこうと思うのですが、どうでもいい話ながら、ちょっと興味深い話を取りこぼしていました。

 

  男の人はなぜマスターベーションをするのか?

 

  進化論的に見れば、せっかくつくった精子マスターベーションによって無駄にするのは、本当に無駄に見えます。 生き物たちの行動の基本原則に反する気がします。 ところが、現実にはほとんどの男の人はマスターベーションをしては精子を無駄にしますし、実をいうと、この習性は私たち人間だけではなく、哺乳類全般にひろく見られるものです。

 

  さらに、配偶者を得ることができなかった男性が(オスが)、使い道のない精子マスターベーションで廃棄処分にしているなら分かりやすいですが、現実には配偶者がいて、せっせと子づくりをしている動物たちの方がせっせとマスターベーションをするのです。 

 

  あたかも、マスターベーションという行動が子づくりをより効果的に行うための「お手入れ」だと言わんばかりにです。

 

  これは一体どういうことなのか?

 

  「精子競争 sperm competition」という用語で以前にも出てきた有名なBaker先生とBellis先生たちの実験があります。 彼らの実験は、今から見ると古色蒼然です。 男性が女性の体の中に射精した精子が、どれだけ外に捨てられずに女性の中に残るかを、セックスが終わったあとで女性の膣から外に流れ出る「バックフロー」と呼ばれる液の中にどれだけ精子が含まれているかを数えて推定したのです。 すると、不思議なことがわかりました。 男性がマスターベーションをしないで何日も過ごしていると、そのあとで射精した精液は量も多く、その中に含まれている精子も多いのに、結局女性の体の中に残ることができる精子は少なく、多くが「バックフロー」という形で外に捨てられてしまい、無駄になってしまうことがわかったのです。

 

  そんなことを男性たちは知るはずもないのですが、ほぼ本能的になのでしょう。 男性たちはセックスやマスターベーションで射精しないことが数日以上続かないように行動していることも示されたのです。 つまり、多くの男性は、前回のセックスから1日、2日しか経っていないと、マスターベーションをすることはありません。しかし3日も経過してしまうと約半数はマスターベーションをして、とりあえず精子を出してしまうのでした。 さらに10日以上経過してマスターベーションをしないような男性はほぼ皆無でした。 実際、ほとんどの男性はマスターベーションしてから2〜4日以内に次のセックスをするように行動しており、こうしてつくられたばかりの新鮮な、生きのいい、精子を出そうとしているのでした。

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  本当にそうなのか? 本当に精子は定期的に出していないと生きが悪くなるのか? どうも本当のようなのです。

  昔は不妊治療をするときに、男性には長期間の「禁欲」をすすめていました。 当然、禁欲期間が長ければ長いほど、次の射精のときに精液がいっぱい出ますし、精子もいっぱい入っているので、その方が良いだろうと思われていたのです。

  ところが、出てくる精子の形態や運動能力には問題がありました。 禁欲期間が1、2日くらいの精子が形態や運動能力が最もよく、それよりもふるくなってしまうとどんどん劣化してくることがわかってきたのです。10日以上も禁欲期間が続いてしまうと、精子の質はガタッと悪くなるのでした。

 

  実際、子づくり世代の若い男女のセックスの頻度は3日に1回くらいであろうと見られており、精子の生きの良さを考えると、最適な頻度となっているわけです。

  例によって進化論の話ですから、ここに意図などありません。 そういう行動パターンの男女が、結果的に最も多くの子孫を残してきたために、現代の私たちにもその行動パターンが遺伝子に組み込まれたプログラムとして存在している、ということなのでしょう。

 

 

参考書

Waterman JM.  The Adaptive Function of Masturbation in a Promiscuous African Ground Squirrel.  PLos One, September, 2010; Volume5: e13060.

 

Baker RR & Bellis MA.  Human sperm competition: Ejaculate adjustment by males and the function of masturbation. Animal Behaviour, 46,861-885.

 

Levitas E, et al.  Relationship between the duration of sexual abstinence and semen quality: analysis of 9,489 semen samples.  Fertility and SterilityVol. 83, No. 6, June 2005