心のこと…

「医科心理学」の知識を遊ぶ

人種差別はずっとずっと 2

  私たち人間は、意識的にどう思っていようが、おそらく生まれつきのデフォルトの特性として、自分と遺伝子的に近い、広い意味での「身内」に対しては優しくできる一方で、自分とは違う人種・民族の人たちに対して共感できず協力できず意地悪にさえなってしまう傾向があることをお話ししてきました。

 

  困ったことに、この傾向は無意識的・潜在的なのです。 意識的・表面上は「人種差別など馬鹿げた、恥ずべきことだ」と思っている人でも、無意識的にそうなってしまうことが知られているのです。

 

  そんな無意識的な傾向をどうやって調べるのか? 潜在的連想試験 Implicit association Test=IATというものがあります。 

  私たちの脳の中では情報が連想 associationという形で関連付けられています。 その関連付けが強ければ強いほどすぐに反応することができます。 例えば、「蝶」ー「きれい」や「ウジ虫」-「きたない」は、「蝶」-「きたない」や「ウジ虫」-「きれい」に比べて、多くの人にとっては当然、関連付けが強いので、「蝶」-「きれい」を関連付ける反応時間は「ウジ虫」-「きれい」を関連付ける反応時間よりも短くてすみます。

  これを利用するわけです。 白人の被験者に対して、その人が潜在的な黒人への人種差別が強い場合、「白人」-「良い人」は「黒人」-「良い人」よりも反応時間が早くなるはずです。 同様に「黒人」-「悪い人」は「白人」-「悪い人」よりも反応時間が早くなるはずです。 それで実際に実験をしてみると、意識的に人種差別意識があるかどうかに無関係に、少なからぬ白人被験者は無意識的・潜在的に「黒人」-「悪い人」という関連付けが強く、要するに黒人に対する人種差別があることが示されているのです。 しかも、このIATを使って評価した無意識的・潜在的な人種差別傾向の方が、意識的な人種差別意識があるかないかという自己申告よりもはるかにずっと、その人の人種差別的な行動に影響を与えてしまうことも示されたのです。

 

  まったくしょうがないな、白人と黒人は…なんて私たち日本人は言っていられません。 世界的にも、日本人は韓国人を嫌いで、韓国人は日本人を嫌いなのは(恥ずかしい話ですが)よく知られています。 こんな人種差別(民族差別 racism)は馬鹿げている、恥ずかしいことだ、と思っている人は多いものです。 ですが、潜在的連想試験IATをやってみると…

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  多くの韓国人にとって「韓国人」-「良い」vs「日本人」-「悪い」は潜在的に関連付けられていますし、多くの日本人にとって「日本人」-「良い」vs「韓国人」-「悪い」は潜在的に関連付けられているために、実際に潜在的連想試験をすると、多くの韓国人は「韓国人」-「良い」よりも「日本人」-「良い」という関連付けには反応時間が多くかかってしまい、多くの日本人は「日本人」-「良い」よりも「韓国人」-「良い」という関連付けには反応時間が多くかかってしまうのでした。 意図的・意識的な民族主義的な態度に無関係に、です。

 

  一つ前の話で、私たち人間は、自分と同じ人種を相手した方が、自分と違う人種を相手にするよりも、より協力的な共同作業をすることができる(逆に言うと、違う人種の人が相手になると、あまり信用も出来ないし協力的な共同作業をすることもできなくなる)ということをお話ししました。 あの傾向も、意図的・意識的な人種差別意識には無関係に、しかし潜在的連想試験IATで測定した無意識的な人種差別にはかなり良く相関することが示されています。

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  同じような話ですが、被験者に実際にお金を預けて、見知らぬ他人を信用してお金を運用する課題を与えた時に、その相手が自分と同じ人種か、違う人種かによって差が出てしまうこともよく知られています。 つまり、意図的・意識的に人種差別意識があるかどうかに無関係に、私たちは同じ人種の人をより信用し、違う人種の人をあまり信用しない傾向があり、自分の大切なお金を預ける相手として、相手が同じ人種である場合に比較して違う人種である場合は、どうしても預けるお金が少なくなってしまう傾向があることも示されています。 この行動的な人種差別の傾向も、意識的ではない、無意識的な人種差別を測定する潜在的連想試験IATの結果によく相関することもわかっているのです。

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  口ではどんなに偉そうなことを言っていても無関係です。 意識的に人種差別意識があるかどうかに無関係です。 私たちには、どうしようもなく、人種差別・民族差別 racismの傾向が、おそらく生得的なデフォルトの特性として、あるのです。

 

  では、この問題はどうにもならないのでしょうか?

 

  潜在的、無意識的なものなので、意識的・意図的に教育しても無意味です。 ところが、これまたこれまでの研究で示されているところでは、ただ他人種・他民族の人たちと一緒にいる時間が多ければ多いほど、差別的行動傾向は少なくなることもわかっています。 無意識的なものは意識的に変えていくことはできないが、行動的に変えていくことはできる…という話は、この後も何度も出てくると思いますが、人種差別の問題についても、これが答えだったのです。

 

 

 

 

参考書:

Greenwald AG, et al.  Measuring Individual Differences in Implicit Cognition:
The Implicit Association Test.  Journal of Personality and Social Psychology, 1998, Vol. 74, No. 6, 1464-1480.

 

Sacheli LM, et al.  Prejudiced interactions: implicit racial bias reduces predictive simulation during joint action with an out-group avatar.  SCIENTIFIC REPORTS | 5 : 8507 | DOI: 10.1038/srep08507.

 

Stanley DA, et al.  Implicit race attitudes predict trustworthiness judgments and economic trust decisions.  PNAS, 2011; 108: 7710-7715.