心のこと…

「医科心理学」の知識を遊ぶ

好意と意地悪 2

  動物たちには遺伝子を共有している「身内」に対して利他行動(愛他行動 altruism)をする傾向がある…という話の続きです。

 

  先にお話ししたハチのような極端な例だけではなく、私たちの仲間である哺乳類でも、動物たちは一般的に「身内」びいきな行動をします。 よく知られたところで、例えばプレーリードッグの利他行動があります。 プレーリードッグも、ライオンの話と同様に、メスたちは身内同士で群れを作って一緒に暮らし、オスは大人になると群れを離れて(自分のハーレムをみつけるための)放浪の旅に出ます。 このため、プレーリードッグの群れにおいて、オスにとっては自分の子どもだけが血縁関係にある(遺伝子的につながっている)わけですが、メスにとっては自分の子どもも、周りにいる姉妹たちも、同じくらい遺伝子的に近い血縁関係にあるわけです。

  このプレーリードッグは、天敵を見つけると危険を知らせるための鳴き声をあげます。(これをalarm callと言います。) 天敵を見つけた時に、自分が逃げるよりも先に、仲間に危険が迫っていることを知らせるために鳴き声をあげるのは、本人にとってかなりリスクのあることです。 その意味で、これは利他行動 altruismと言えます。

  問題は、天敵を見つけた時に危険を知らせる鳴き声をあげる頻度です。 データをとると、プレーリードッグたちは明らかに身内(子どもやきょうだい)がいる場合の方が、全く赤の他人しかいない場合に比べて、ちゃんと危険を知らせる鳴き声をあげるようになるのです。

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  当たり前と言えば当たり前です。 こうした身内びいきの行動パターンを持っている動物の方が、そのような行動パターンを持っていない動物よりも、自分の遺伝子や自分と同じ遺伝子を持つ血縁者の遺伝子を生き残らせ、繁栄させることができたであろうことは明白だからです。

 

  そして、ダークサイドの話になりますが、「身内びいき」ということは、つまり相対的に「他人に対して冷たい」ということになります。 さらにいうと、身内にひいきするために、他人に対しては意地悪なことにもなる場合もあります。 実際、ある種のカラスは自分以外の子どもを襲ってその肉を自分の子どもに食べさせたりもします。 ウサギも地リスも、自分の子どもの餌を確保するために、血縁者ではない他人の子どもを攻撃して殺したりもします。 そこまで極端ではなくても、「身内びいき」には常にこうしたダークサイドがあります。

 

  さて、私たち人間も当然同じです。 私たち人間も生得的に自分と遺伝子を共有している「身内」に対して利他行動(愛他行動)をする一方で、自分と遺伝子の共有部分が少ない「他人」に対して比較的冷たくなりますし、時には意地悪をすることさえあります。

  私たちも、他人の子どもよりも自分の子どもがかわいいと感じるようにできていますし、自分の子どものためだったら命だって惜しくない行動をしても、他人の子どものためにそこまで出来る人は少ないです。

  さらに人種差別 racismがあります。 つまり、私たちは生得的に、遺伝子的にプログラムされた行動パターンとして、ほとんど無意識的に、自分と遺伝子的に近い同じ民族・人種を好み、遺伝子的に遠い別の民族・人種を嫌う傾向があるのです。 これは時に異人種への「意地悪」にさえ発展します。 (人種差別の問題は、興味深い点がいくつもあるので、この少し後でまたとりあげます。)

 

参考書:

Martin Daly &  Margo Wilson.  Discriminative Parental Solicitude: A Biological Perspective.  Journal of Marriage and Family, Vol. 42, No. 2 (May, 1980), pp. 277-288.

 

Davies NB, et al.  An Introduction to Behavioral Ecology