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心のこと…

「医科心理学」の知識を遊ぶ

子殺しと利己的な遺伝子 2

   継父stepfather(≒子どもの母親にとっての新しい性的パートナー)による子殺しの問題は、実はライオンに限らず、動物界では広く見られる現象です。 私たち人類に近い猿たちにも見られます。 ライオンのオスによる子殺しの話をしたところでお話ししたように、一見するとこの非道い行動には、自分の遺伝子を残すための非常に適応的な意味があるのでした。

 

  では、猿の一種である人間はどうか?

 

  おそらくこれが遺伝子的にプログラムされた行動パターンであることの反映として、実は「継父(法律的には結婚していない「連れ子の母親の新しい性的パートナー」をも含む)」による連れ子殺しは世界中の民族・部族に見られる現象です。

 

  さすがに、連れ子殺しが「殺人罪」になってしまう先進諸国では連れ子殺しは表立って行われることは稀です。 そうではあっても「虐待死」という形で(しかも、継父にとっては「虐待」ではなく「しつけ」だとしてなされる暴力がほとんどです)継父による連れ子殺しは(生物学的・遺伝子的な本当の父親による子殺しに比較して)非常に多いことが知られています。

 

  例えば、Daly先生とWilson先生は、幾つもの大規模で詳細な調査・研究を行い、世界中のいたるところで、生物学的・遺伝子的な本当の父親に比較して、「継父」による子殺しは発生頻度が圧倒的に多いことを示しています。 しかも、継父が法律的には認められた、社会的な責任もある「父親」になっている(正式に結婚している)場合に比べて、結婚をしていないただの「母親の新しい性的パートナー」(連れ子の母親の恋人)である場合は、そのリスクはさらに圧倒的に高まります。

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  どうりで、非常にしばしば「母親の恋人による連れ子殺し」「虐待死」のニュースを目にするわけです。

  非道い話です。 しかし、これもライオンなど動物たちの例を考えれば、ありえない話ではないのです。 連れ子殺しをする男性の立場からすると、自分の遺伝子を受け継いでいるわけでもない、どこの馬の骨ともしらない男性の遺伝子を受け継いでいる子どもの養育に、自分の大切な時間と労力(「親投資 parent investment」)を使うわけにはいかないのです。 特に社会経済的地位が低く、余裕のない男性にとっては、です。

  このため、逆に言うと、連れ子がいながら遺伝子的に無関係な男性を新たなパートナーにする母親の女性には、よっぽどの覚悟が必要だということになります。

 

  そんな、子どもの虐待死なんて、そもそも発生頻度が極端に低いではないか? そんなに目くじらをたてることではないのではないか? と思う人もいるかもしれません。

 

  しかし、上記のDaly & Wilsonのデータは「虐待死」です。 虐待がいきすぎて死亡させてしまったケースです。 おそらく、それよりも圧倒的に多くの子どもが、死なないまでも虐待をうけているでしょう。 そして、それよりも圧倒的に多くの子どもが「虐待」とまではいかない不幸な目にあっているでしょう。 そして、それよりも圧倒的に多くの子どもが、十分な愛情を受けることができず、十分なケアを受けず、十分に守ってもらえず、十分なお金をかけてもらえずにいるはずです。 

 

  実際、オーストラリアの国民データを使った調査・研究で、Tooleya先生たちは、生物学的・遺伝子的に本当の両親と暮らしている子どもや、片親になってしまった子どもに比べて、母親が「継父」と一緒に暮らしている家族では、連れ子は非常に高い確率で「不慮の事故(水の事故など)」によって死んでいることが示されているのです。 そのリスクは実に2〜15倍だと見積もられています。

 

   こういうのを、(継母にいじめられるシンデレラに例えて)「シンデレラ効果 Cinderella Effect」と言います。 そんな言葉が普通に存在するくらい、この業界ではよく知られた当たり前の現象なのです。

 

  よく連れ子たちは、母親の再婚を嫌います。 子どもたちの反対にもかかわらず再婚した母親のことを、「あの人は子どもよりも男を選んだ。自分が母親であることよりも、女であることを選んだ!」といって責めるのをよく聞きます。 不幸な目にあう確率が高い連れ子としては、非常にもっともな反応ではあるのです。

 

 

参考書

Daly M & Wilson M.  Discriminative parental solicitude : a biological perspective.  Journal of Marriage and Family, 1980; 42: 277-288.

 

Daly M & Wilson M.  An assessment of some proposed exceptions to the phenomenon of nepotistic discrimination against stepchildren.  Ann Zool Fennici, 2001; 38: 281-296.

 

Tooleya GA, Karakisa M, Stokesa M, Ozanne-Smith J.  Generalising the Cinderella Effect to unintentional childhood fatalities.  Evolution and Human Behavior 27 (2006) 224–230.