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「医科心理学」の知識を遊ぶ

男と女のラブゲーム 5

  男も女も、配偶者(性的なパートナー)を騙したり出し抜いたりしてでも、自分の遺伝子の生存確率が最大限になるように、あれこれ戦略的な行動をします。 (といっても、すべては意識的・意図的にやっているものではなく、ほとんど完全に無意識的な行動であるのですが、結果的にこのような行動パターンをコードする遺伝子が生き残ってきた、ということだったのです。) 

 

  女性は、遺伝子的に好ましくない男性を(とりあえずの)「夫」とした場合、夫の隙を見て浮気EPCをすることで、夫よりも優良な遺伝子を取り入れようとします。 夫の側はそうされまいと、あれこれ対抗策を取っているのでした。 妻が浮気をする隙を得た直後にすぐにセックスして「精子競争 sperm competition」をさせることで、妻の企みを阻止しようとするのもその一つでした。 これでは、妻のせっかくの努力も無駄になってしまう恐れがあります。

 

  その時、女性はどうするか?

 

  実は、女性にはまだ他にも対抗手段があるのでした。 それは女性がセックスの時にオルガスムに達するかどうか? そしてそのタイミングがどうなっているか? によって受精しやすさをコントロールしている、というものです。 これは男性側からはコントロールできないものですし、そもそもそんなことをされているとは気づくこともできないものです。 このため「女性による密かな配偶者選択 female cryptic mate choice」と呼ばれています。

 

  いったい、どういうことか?

 

  つまり、こういうことです。 昔は女性のオルガスムは女性に快感を与えること、そしてその時に下垂体ホルモンであるオキシトシンが急激に大量に分泌されることを通じてパートナーとの間に愛着と絆をつくること、以外にはあまり意味がないと思われていました。 ところが、動物実験によって、動物の女性が(メスが)オルガスムに達すると、子宮が収縮することでスポイトのように陰圧になり、膣内にある精子を含んだ液体を子宮内に吸い込むことによって受精の可能性を高めている、というメカニズムが示唆されたのです。 ということは、人間もそうなのか?

  変な実験ですが、実際に人間の女性の子宮に圧力モニターを挿入して、その状態で普通に普段のパートナーとセックスしてもらいます。 すると、子宮は普段からわずかに収縮したり弛緩したりを繰り返しており、それによってわずかに陰圧になったり陽圧になったりしているのですが、セックスでオルガスムに達すると、急に収縮して一気に陽圧になり、その後しばらく陰圧になることがわかったのです。 これによって、陰圧になっている間に、膣内にある精子を含んだ液体を吸い上げることを実際にしていたのです。

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  ということは、女性がパートナーとのセックスでオルガスムに達すかどうか、達したとしてそのタイミングがどうなっているか? が受精可能性に大きく関わって来ます。 つまり、オルガスムに達することがなかったり、男性側よりも先にオルガスムに達していたら、ほとんど「精子の吸い上げ」効果は期待できません。 それに対して、男性側がオルガスムに達した後で女性側がオルガスムに達することができれば、そこにある精子を吸い上げることになり、受精・妊娠可能性を高めることができます。 実際、計算すると女性が「オルガスムに達しない」場合や「男性よりも先にオルガスムに達する」場合は、精子の保持率は0〜50%くらいだろうと推計されるのに対して、「男性がオルガスムに達した直後、あるいは同時に、女性もオルガスムに達した」場合は、精子の保持率は50〜90%になるのです。

 

 大きな違いです。 

 

  つまり、女性は気に入った相手であると、男性がオルガスムに達したすぐ後で自分もオルガスムに達することで、その相手の精子を積極的に取り入れようとし、逆に気に入らない相手の場合は、オルガスムに達しないことで、彼の精子を拒否することを、ほとんど完全に無意識的にしていたのです。

 

  実際、女性の妊娠願望とオルガスムに達するタイミングとの相関をとってみると、女性が妊娠したいときは、男性側オルガスムに達したあとで自分もオルガスムに達することが多いことが示されているのです。

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  もちろん、男性もそれに対して対抗手段を取ろうとします。 つまり、何としても自分とのセックスで女性をイかせようとするのです。 そのうえ、女性がイかないと、どこか不満になって他のパートナーを探そうとしてしまいます。 これは、女性にとっては困ります。 そこで、女性も対抗手段をとります。 つまり、オルガスムに達したフリをするのです。 実際に調査をすると、約半数もの女性たちが、オルガスムに達するフリをしてしまうことがわかっています。

 

  男と女のラブゲームです。 こういうのを進化論的には co-evolutionというのですが、お互いがお互いを欺き、出し抜こうとして、どんどんやり口が巧妙化していくのです。

 

  男も女も、よくやります…。

   

 

 

参考書

Fox CA, et al.  MEASUREMENT OF INTRA-VAGINAL AND INTRA-UTERINE PRESSURES DURING HUMAN COITUS BY RADIO-TELEMETRY.   J Reprod Fert,  1970; 22:  243-251.

 

 Gallup Jr GG, et al.  Do Orgasms Give Women Feedback About Mate Choice?  Evolutionary Psychology, 2014; 12(5): 958-978.

 

Singh D, et al.  Frequency and Timing of Coital Orgasm inWomen Desirous of Becoming Pregnant.  Archives of Sexual Behavior‚ Vol. 27‚ No. 1‚ 1998: 15-29.

 

Kaighobadi F, et al.  Do Women Pretend Orgasm to Retain a Mate?  Arch Sex Behav. 2012 October ; 41(5): 1121–1125.