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心のこと…

「医科心理学」の知識を遊ぶ

男と女のラブゲーム 1

  配偶者選択 mate choiceにおいて、女性が男性に求めるいくつもの条件についてさんざん見てきました。 しかし、同時に、そんなにいくつもの条件をすべてキレイに満たす男性なんてそうそういないという現実があります。 希少価値です。 そんな希少価値の男性にばかり女性たちが集まって行ったら、とんでもない過当競争になってしまいますし、結果として遺伝子を残せない男女がものすごく増えてしまいます。 これは、いけません。

 

  では、原始時代の女性たちはいったいどうやってこの難局を乗り切って来たのか? どうやって男性よりもはるかにしぶとく生き延びて来たのか? (女性の方が男性よりもはるかにしぶとく生き延びる傾向があることは、アダムとイブの年代差のところでお話ししてきました。)

 

  実は、同じような難問にぶつかっているのは、なにも私たち人類だけではありません。 ほとんどの動物は、メスがオスを選びます。 たくさんのメスたちが遺伝子的に良いオスを奪い合うことになります。 美しいメス(≒遺伝子的に優れたメス)は良い遺伝子を持ったオスを得ることができますが、ほとんどの「それほど美しいわけではない」メスたちは、それにありつくことができません。 彼女らは、遺伝子的にそれほど好ましくないオスを、しぶしぶながら(?)、配偶者にします。 では、配偶者選択の競争に負けた彼女らはただ泣き寝入りしているかというと、そうではないのです。 彼女らは時々、正規の配偶者のオスの隙を狙って浮気(学問的にはextra-pair couplation=EPCと呼ぶことが多いです)をして、遺伝子的に優良なオスの精子をもらって来て、それを正規の配偶者のオスの子であるかのように、何食わぬ顔でこっそり育てていくことをするのです。

 

  そうです。 私たち人類の祖先の女性たちがやっていたことも、おそらくこれだろと見られているのです。 つまり、女性たちの中でもとりわけ美しい女性は、理想的な夫を手に入れることができたでしょう。 しかし、それほどでもない大勢の女性たちは、イマイチな男性を、しぶしぶ、生活のために、とりあえず配偶者としてキープすることをしたのです。 そうしておきながら、時々、夫のいない隙を狙って浮気EPCをしては、イケメンで遺伝子的に優良な男性の精子をもらってきて、何食わぬ顔でこっそり妊娠して、自分と正規の夫の子であるかのように、育てて行ったのでしょう。 まあ、今だったら血液型も遺伝子診断もありますから、こんなことは無理でしょうが、原始時代から長らくずっと、女性たちにはこれが可能だったのです。

 

  そんなバカな!? と思うかもしれません。 私たち人類の祖先の女性たちは、そんな悪女ばっかりだったのか!?

 

  しかし、残念ながら、本当にそうだったようなのです。 その間接的な証拠に、現代に生活する私たち現代人の女性にもその名残があります。

 

  例えば、以前の話題で、自分と近い遺伝子・MHC型を持っている男性と(しぶしぶ)結婚せざるを得なかった女性たちは、こと性的なことに関しては、とても不満でありがちなことがわかっています。 彼女らは夫に対して、そもそもあまり性的に魅力的だと感じませんし、それほどセックスもしたくないですし、してもあまり感じないですし、オルガスムに達することもあまりありません。 (この女性がオルガスムに達しないということがいったい何を意味するのかは、このもう少しあとで、「女性による秘密の配偶者選択 female cryptic mate choice」のところでお話しします。) そのうえ、彼女らは(妊娠可能性が高まる)排卵日前になると、浮気を夢見るようになり、実際に浮気行動をしがちになることも知られています。 (もっとも、現代社会では、もし妊娠してしまったら医学的検査で子どもの本当の父親がバレてしまいますから、彼女らは浮気をする時には避妊をすることでしょう。 ただ、この排卵日前の浮気という行動パターンだけは、原始時代から生得的に、遺伝子的にプログラミングされたものとして、残っている、ということなのです。)

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  MHC型の問題だけではありません。 男性がイケメンであることや、男らしいセクシーな身体つきをしていることなど、性的な魅力に欠けた≒遺伝子的に優良である特徴にかけた、イマイチな男性を夫にせざるを得なかった女性たちは、特に排卵日前になると、一気に浮気願望が強まり、実際に浮気行動をしてしまう傾向があることがわかっています。 (そして、夫の方は夫の方で、妻のこうした行動を阻止しようと、妻の排卵日が近づくと、他の男性たちを寄せ付けまいとガードする行動が増えることも知られています。 どちらの側も、大部分は無意識的に動機付けられた行動なのですが、それぞれの立場の損得に実にうまいこと合っているわけです。)

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  ところで、なぜ女性の浮気行動が増えるのは排卵日前なのでしょう? 当たり前です。 普段から浮気行動ばかりしていたら、正規の配偶者の男性に逃げられてしまうに決まっています。 普段はおとなしくしていて、ここぞという時にだけ(つまり、妊娠可能性が高まる排卵日前にだけ)ささっと浮気行動をする、というわけです。

 

  そして、動物たちと同様、こうした浮気行動をする女性たちというのは、イマイチな男性を夫とせざるを得なかったイマイチな女性たちなのです。 動物の世界と同様に、とても美しい女性は、そもそも最初から満足な相手の得ていることが多いので、わざわざ浮気をする必要性などないわけです。 とはいえ、男性は心配性なので(男性が心配性なのは、原始時代は自分が本当に子どもの生物学的・遺伝子的な父親なのかどうかを知るすべがなかったからです。この問題はpaternal uncertaintyの問題としてよく知られているものです。)、運良く(?)とても美しい女性を配偶者にしてしまった男性は、彼女の排卵日前だけでなく、いつもいつも、彼女をガードする行動をとりがちなことが知られています。 まあ、大変ですね。

 

 

参考書

Gangestad SW, et al.  Changes in women’s sexual interests and their partners’ mate-retention tactics across the menstrual cycle: evidence for shifting conflicts of interest.  Proc. R. Soc. Lond. B (2002) 269, 975–982.

 

Haselton mG & Gangestad SW.  Conditional expression of women's desires and men's mate guarding across the ovulatory cycle.  Hormones and Behavior 49 (2006) 509–518.

 

Garver-Apgar CE, et al.  Major Histocompatibility Complex Alleles, Sexual Responsivity, and Unfaithfulness in Romantic Couples.  PSYCHOLOGICALSCIENCE, 2003; 17: 830-835.

 

Roberts SC, et al.  Female facial attractiveness increases during the fertile phase of the menstrual cycle.  Proc. R. Soc. Lond. B (Suppl.) 271, S270–S272 (2004).

 

Pipitone RN & Gallup Jr GG.  Women's voice attractiveness varies across the menstrual cycle.  Evolution and Human Behavior 29 (2008) 268–274.