心のこと…

「医科心理学」の知識を遊ぶ

アダムとイブの争い 6

  ネズミにおける配偶者選択 mate choiceでは、メスは匂いによってオスのMHC型が自分と近いか遠いかを知り、メスは自分と遺伝子的には遠く、MHCが大きく異なる相手を配偶者(恋人)として選ぶ傾向がある、ということをお話ししました。

 

  驚いたことに、すべての動物たちがそうだというわけでもないのですが、魚も、鳥も、哺乳類の多くも、同様にメスがオスの匂いによってMHC型を嗅ぎ分け、自分とは遠いMHC型を持つオスを配偶者(恋人)に選ぶ傾向があることがわかってきました。

 

  …ということは、私たち人間でもそうなのか?

 

  実は、そうなのです。人間の女性はわざわざ意識的に男性の匂いを嗅いで性的な対象として好ましいかどうかを判断しているわけではないのでしょうが、実際に結婚している人たちを調査すると、女性たちは偶然よりも高い確率でMHCが遠く離れている男性を配偶者として選んでいるようであることもわかってきました。

 

  そこで、実験です。若い女性をたくさん集めて、男性の匂いを嗅いでもらって、どれだけ好ましいとかセクシーだと感じるかを評価してもらいます。男性の見た目に左右されないように、「男性の匂い」は、サンプルの男性たちに1日着てもらったTシャツを使うようにしたのです。さて、結果はどうなったか?

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  結果は予想通りでした。女性たちは、自分とはMHC型が遠く離れた男性の匂いを魅力的だ、セクシーだと感じる傾向があることがわかったのです。しかも、その傾向は妊娠の可能性がぐっと高まる排卵日前(性周期の卵胞期)にのみ強まること、逆に妊娠の可能性がほとんどない排卵日後(黄体期)や経口避妊ピルを服用して妊娠できない状態にしておくと、その傾向はなくなってしまうことがわかったのです。

  つまり、女性たちはズバリ妊娠する相手として(自分の遺伝子を掛け合わせる相手として)男性を見るときに限って、相手の男性のMHC型が自分とは遠く離れていることを魅力的に感じるのでした。

 

  ところが世の中、需要と供給のアンバランスはいつもあります。すべての女性たちが運良く自分とは遠く離れたMHC型を持つ理想の男性と結婚できるとは限らないのです。では、夫婦でMHC型が近いか、遠く離れているかによって結婚の幸せ度合いは変わってくるでしょうか?

  調べて見ると、結婚全般の幸せ度合いは、そう影響を受けませんでした。しかし、(男性が女性を見た場合はそうでもないのですが)女性が男性を性的な対象として見たときには、MHC型が近ければ近いほど、性的には不満が多くなり、性的に感じにくくなり、オルガスムも少なくなり、他の男性に目が向くことが多くなり、不倫を夢見ることが多くなり、実際に不倫をしてしまうことが増えてしまう…という驚きの結果が示されたのです。

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  …なんと、人間の女性も男性を匂いによって(それによって推定されるMHCの違いによって)選んでいたのか。もちろん、こんなことは人間の女性たちは意識してやっていることではないでしょう。無意識的に好き嫌いに影響を与えているのです。女性たちは、無意識的に(本能的に)排卵日前になると(=妊娠可能性が高まる時期になると)自分とはMHC型が遠く離れた、その意味で遺伝子的に交配するのに好ましい相手にひかれるようになる…。この後で何度も繰り返し見ていくことになりますが、いやあ、無意識の影響力って大きいものです。

 

 

参考書

 Roberts SC, et al.  MHC-correlated odour preferences in humans and the use of oral contraceptives.  Proc. R. Soc. B (2008) 275, 2715–2722.

 

Garver-Apgar CE, et al.  Major histocompatibility complex alleles, sexual responsivity, and unfaithfulness in romantic couples.  Psychological Science, 2006; 17: 830-835.