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心のこと…

「医科心理学」の知識を遊ぶ

アダムとイブの争い 5

   動物たちには(特にメスがオスを配偶者として選ぶときに)「自分とどこか似た特質を持った相手を配偶者として選んでいく」という傾向があり、これによって「似た者夫婦」をつくり、その夫婦がお互いによく似ているところがさらに似ている子供をつくっていく傾向があることを見てきました。いわゆる「類別交配 assortative mating」です。

 

  しかし、問題があります。当然、遺伝子的に近いものたちは、形質的にも似てくるのですが、遺伝子的に近いものは配偶者として避けなくはいけません。病気が増え、死んでしまうリスクが増えるからです。常染色体劣性遺伝をする遺伝病は、遺伝子的に近いものが配偶者になると増えてしまいます。さらに、感染症に対する防御もバリエーションがないと、たった一つの流行病で一族全滅なんてことになりかねません。それでは困るわけです。

 

  そこで、動物たちは、性質・形質的には似ていながら、遺伝子的には離れているものを配偶者として選んでいくことになります。

 

  でも、いったいどうやって?

 

  動物たちが「自己」と「非自己」を、そして「遺伝的に近いもの」と「遺伝的に遠いもの」を見分けてくのは、細胞の表面に突き出ている身分証明書的なタンパク質「組織適合性複合体 major histocompatibility complex=MHC」(人間の場合は、特にヒト白血球抗原LHAと呼ぶこともあります)によります。

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  まずはずいぶん下等な動物を見てみましょう。幼生の間は一人一人で生き延び、成長すると仲間同士で合体してコロニーをつくるホヤの一種Botyllus schlosseriという動物がいます。彼らは、コロニーをつくるときには、遺伝子的に近いものを仲間として選んでいく傾向があるのですが、ここで「遺伝子的に近い仲間」か、そうではない「遺伝子的に遠いもの」かを見分けていくのは、組織適合性タンパク質の一種です。これが近いと合体して一体化したコロニーをつくりますが、遠いと「拒絶反応」を起こしてくっつくことができません。

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  そして、くっつく前から組織適合性タンパク質の違いによって違ってくる分泌物を分泌して、それを信号物質にして、「仲間」と「仲間でない」ものを見分けるコミュニケーションをしているのです。

 

  同じようなことを、もっと高等な動物たちもします。 そのことが最初に発見されたのはネズミでした。

  ネズミも配偶者に選択においては、メスがオスを選びます。(親投資 parent investmentの大きな男女差から、メスの方により選択権があるのは当然です。) その際に、ネズミのメスは自分の組織適合性複合体MHCとは遠く離れた組織適合性複合体MHCを持っているオスを、匂いによって嗅ぎ分け、より好む傾向があることがわかったのです。 こうして、メスのネズミは「似た者夫婦」がつくれるような、自分とどこか似たような性質・形質を持っていながら、遺伝子的には(組織適合性複合体MHC的には)遠く離れた相手を、配偶者として選んでいたのです。

 

  匂いによって「このひとは、私と同じ匂いがする。やめておこう」というような判断をしている動物たち。 ということは、私たち人間もそうなのか? 私たち人間の女性も、男性を配偶者(恋人)として選んでいくときに、相手の匂いによって、相手の組織適合性複合体MHCが自分と近いか遠いかを判断し、自分とは遠い相手を好むようになっているのか?

 

 

参考書

Singh PB.  Chemosensation and genetic individuality.  Reproduction (2001) 121, 529–539.