心のこと…

「医科心理学」の知識を遊ぶ

アダムとイブの争い 3

  配偶者選択 mate choiceは、決してランダムにされるわけではない…という極めて当たり前の話をします。

 

  その中でも、まず取り上げたいのが、類別交配 assortative matingの傾向です。 動物たちは、ほとんどみんな、自分とどこか似た相手を配偶者として選ぶ、という傾向です。

 

  いったいどういうことか?

 

  例えば、「キリンの首はなぜ長くなったのか?」という、学校で進化論を習う時に出てくるおきまりのストーリーで考えてみます。進化論の説明として、中学生相手になされる説明はこうです。

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(1)大昔のキリンはロバのような動物で首が短かった。ところが、遺伝子的に生まれつき、たまたま首が長いのもいた。

 

(2)首が長いキリンは、木の高いところにある葉っぱを食べることができたり、高い場所からの索敵能力に優れていたために、少しばかり生き残りに有利であった。

 

(3)生き残りに有利だった首の長いキリンは、生き残って子孫を残すことになったが、この子孫は首が長い形質を遺伝子的に引き継ぎ、やっぱり首が長かったので、生き残りに有利だった。

 

(4)こうしたことが何世代も繰り返されていくうちに、キリンたちの遺伝子プールは首が長くなる遺伝子が普通になり、そのうえ、同じメカニズムでどんどん首が長くなっていった。

 

…そんな、馬鹿な。そんな理屈じゃ、中学生は騙せても、大人は騙せません。もともとロバのような首の長さだったものが、いきなり1世代で今のキリンと同じくらい首が長くなるとは思えません。遺伝子の変異で長くなるとはいっても、ほんの少しの差だったことでしょう。そうなると、そんな少しの差で生存に有利になるとはとても思えません。さらに、もし第1世代のキリンの先祖が少しくらい首が長かったとしても、彼が首の短い嫁さんをもらったら、次の世代はまた首の短いキリンに逆戻りです。もし配偶者選択 mate choiceが首の長さに関してランダムに行われるとしたら、世代を重ねるごとに首が長くなるなんてありえないのです。

 

  そうなのです、上記の進化論は、狭義の自然選択 natural selectionをメカニズムにしてしまうと、うまくいかないのです。 そうではなく、性選択 sexual selectionに置き換えると、うまく説明できるようになります。

 

  つまり、こういうことです。

 

(1)大昔のキリンはロバのような動物で首が短かった。ところが、首が長い方が好みのメスがいた。この「首が長いオスが好き」という配偶者選択の行動パターンは遺伝子的に決定されていて、彼女の母親から引き継がれたものだった。彼女の母親の首が長いのが好きだったために、彼女の父親は首が長く、彼女も首が長かった。

 

(2)首が長いオスが好きな首の長いメスのキリンは、首の長いオスのキリンを配偶者選択して、さらに首の長い子どもたちが生まれた。子どもたちも「首が長い方が好き」という好みが遺伝していたので、子どもたちが大きくなって配偶者選択する時には、やはり、首が長い相手を選ぶのだった。

 

(3)こうやって何世代も世代を重ねるごとに、どんどん「首が長い」遺伝子がかけあわされていくことになり、キリンの首はどんどん長くなっていった。

 

  本当にそんなことが起こるのか?

 

  では、実験です。 たくさんのネズミに迷路課題を行わせて、エラーの少ない「頭の良いネズミ」と、エラーの多い「頭の悪いネズミ」にクラス分けします。そして、「頭の良いネズミ」は「頭の良いネズミ」同士、「頭の悪いネズミ」は「頭の悪いネズミ」同士で交配してみます。

(自然界では、「頭の良いお相手が好き」な遺伝子的な傾向と、逆に「頭の悪いお相手が好き」な遺伝子的傾向を持って、自然に類別交配をしている、と仮定してみたわけです。実際にネズミの世界でそういう類別交配の傾向があるかどうかは別にして、例えば人間では、知能による類別交配の傾向は確実にあることがわかっていますし、知能という特性は極めて遺伝性が強いこともわかっているのです。)

   これが何世代も繰り返されるとどうなるか?

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  結果は歴然でした。世代を重ねるごとに差は広がり、7世代も繰り返されると、「頭の良いネズミ」と「頭の悪いネズミ」は見事に二分され、迷路課題での知能という面では、もはや別の生き物になっているかのようでした。これが進化であり、多様化であり、分岐化なのです。つまり、類別交配は、動物たちをある一定の方向に極端化して進化させるために必須の原動力のようなものなのです。

 

  では、私たち人間ではどうなのでしょう?

 

 

 

参考書

Raven.  Biology, 9 th ed