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心のこと…

「医科心理学」の知識を遊ぶ

アダムとイブの戦い1

   現代に暮らす世界各地の男性、女性の遺伝子を調べることで、人類の起源を推定することができる…。 より具体的には、男系で継承されるY遺伝子の遺伝子変異を追うことで世界中に住む男性の遺伝子的な系譜を追うことができますし、女系で継承されるミトコンドリア遺伝子の遺伝子変異を追うことで女性の遺伝子的な系譜を追うことができます。男は女がいなければ、女は男がいなければ生きていけませんから(遺伝子的な意味では、です)、原始時代の頃からずっと男性は常に女性と、女性は常に男性と一緒に生きて来たはずで、男系の遺伝子を追おうと、女系の遺伝子を追おうと、結果は同じになるはず…と思ったらそうではなかったのです。

 

  実際、この進化論の話の導入部分でお話ししたように、女系は約15万年前のアフリカに暮らす一人の女性(「アフリカのイブ」)を起源とすることがわかっていたのですが、男系について調べるとなんと約5万年前までしか遡れず、世界中の全ての男性の持つ男系の遺伝子は約5万年前にアフリカに暮らす一人の男性(「アフリカのアダム」)に起源を持つことがわかったのです。

 

  イブは15万年前なのに、なぜアダムは5万年前? なぜアダムはイブよりも10万年も遅れてやって来た? イブは10万年もアダムの到着をイライラしながら待っていたとでも言うのか?

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  当然、そんなことはないわけです。 ここに「男」と「女」の違いが表れています。一般に、性別によってなんらかの違い(身体の大きさや形、行動パターン、等々)がある場合、それによってなんらかの意味でその性別の中での生殖・繁栄での競争に有利に働いたからだろう、と考えられる原則があります。これは自然環境などへの環境適応への有利・不利によってその形質(身体の大きさや形、行動パターン、等々)が生き残り繁栄していく確率が上がることによる「自然選択 natural selection」とちょっとばかり区別する意味で「性選択 sexual selection」と呼ばれます。おそらく、進化論的な意味での「性選択」によって、男性は「男性的な」行動パターンを進化させ、女性は「女性的な」行動パターンを進化させ、そうした行動パターンの違いによって、人類の進化の歴史は男性と女性で微妙に違っている面がある…ということなのでしょう。

 

  というわけで、ここからしばらくは、進化論的な「男」と「女」の違いについて、見ていこうと思います。

 

  話は戻って、「アフリカのイブ」が地上に降り立ったのが約15万年前であるのに対して、「アフリカのアダム」は約5万年前だった、という問題です。 いったいなぜなのか? いったい何が起こったのか?

 

  当然、「アフリカのイブ」には夫がいたでしょう。議論をわかりやすくするために、この頃の両親はだいたい等しく男の子も女の子も2人ずつつくっていた、とします。「アフリカのイブ」とその夫からは、2人の男の子と2人の女の子ができます。次の世代はまたそれぞれ4人ずつ子どもをつくりますから、男の子は合わせて4人、女の子も合わせて4人になります。その次の世代、さらにその次の世代、…そうして10万年後の「アダム」が生まれる頃の第n番目の世代では、男の子は2のn乗、女の子も2のn乗人に増えているはずです。ところが、歴史はこの約5万年前にたくさんいたはずの男性のうち、「アダム」だけしか生き残っていないことを示しています。「アダム」以外の2のn乗ー1人もの男性たちは、いったいどこに行ってしまったのでしょう?

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  どこにいくも何も、遺伝子的には消滅していったのです。「アダム」以外の男性はみんな死に絶えたのです。そして、「アダム」一人だけが2のn乗人もの女性たちを独り占めした…ということになります。

 

  いったい何が起こったのか? 女性たちは平気で生き残っていることを考えると、自然環境の変化によって、多くの男性が死に絶えたのではないだろうと思えます。同様に、疫病とかでもなかったでしょう。では、なぜか? アダムか? アダムが自分以外の男性たちを皆殺しにして、自分だけが世界中の女性たちを独り占めにしたのか? なんて悪いやつなんだ、アダムってやつは。そんな悪い奴が私たち人類共通の父親だというのか?

 

いくつかの仮説が可能です。しかし、まず一つ確かなことがあります。女性に比べて、男性は「性選択」を生き残ることが格段に難しい、ということです。

 

  男は、強くなければいきてゆけない。優しくなければ生きてゆく資格がない…?

 

 

 

 

参考書

Wells S.  The Journey of Man