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心のこと…

「医科心理学」の知識を遊ぶ

進化論の話9

目的に方向付けられ階層構造化された動作のプログラム≒「意図」を伝えるメカニズム

 

  私たちが人間やサルには「(主には手や道具を使って行う)目的に方向付けられ階層構造化された動作」を大脳皮質でプログラミングして、実行する能力があります。それを行なっているのが前頭葉の下の方、頭頂葉との境目あたりにある部分 posterior part of inferior frontal gyrusであり、ここはサルでいうとF5と呼ばれる領域であり、人間でいうと「ブローカ領域」と呼ばれ、かつては(優位半球においては)「運動性言語中枢」だと思われていた場所です。

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  サル以上の動物たちには(もちろん、人間にも)大脳皮質のこの部分の神経細胞には「ミラー・ニューロン mirror neuron」と呼ばれる面白い性質があることがわかっています。

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  ついでにいうと、サルでいうとF5、人間でいうブローカ領域以外にも「ミラー・ニューロン」の性質を持つ部分として知られているのが、サルのPFG(頭頂葉の下の部分、ちょうど側頭葉と後頭葉に隣接するような場所)であり、これは人間でいうと「ウェルニッケ領域  」、つまりかつては(優位半球においては)「感覚性言語中枢」と呼ばれていた場所です。

 

  その「ミラー・ニューロン」と呼ばれているのは、いったいどんな性質のことなのか?

 

  ミラー・ニューロンの名前の通り、相手の行なっている行動、相手の感じている感覚に一致して、相手の脳内でニューロンが活動しているのと同じように、自分の脳内のニューロンが活動するのです。これによって、(人間を含めて)サル以上の動物たちは、相手が感じるように自分の内側で感じることができ、これが「共感性」や「模倣」の基礎となり、より複雑な社会的行動を可能にしていったのだろうと考えられるのです。

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  そして重要なのは、このミラー・ニューロンの性質が「目的を持った動作」のプログラミングを行う領域(サルでいえばF5、人間でいえばブローカ領域)に生じている、ということです。つまり、サルや私たち人間は、相手がやっている「目的を持った動作」を見て、それを自分の内側に「目的を持った動作」のプログラムとして、つまり「こうしたいという気持」や「意図」として表象し、感じ、意味付け、解釈していくことができるようになっている、ということです。さらにいうと、同じメカニズムを使って、私たちは自分自身が行なっている動作を見て、そこに「こうしたいという気持」や「意図」を意味付け、解釈していく性質があるということでもあります。

(これが、私たちが「自分の気持ち」として感じる「意識的な自分 conscious self」の基礎になると考えられます。私たちの脳内では膨大な情報処理が複雑に進行しているのですが、そのうち「こうしたいという気持ち」や「意図」としてミラー・ニューロンが概念化することができる部分だけ、「意識」として形になってくる、ということなのでしょう。これはブローカ領域が関わる運動系(「こうしたいという気持ち」や「意図」という運動プログラミングに関わるもの)だけでなく、ウェルニッケの領域が関わる感覚系(「こういう感覚、こういう感情」)についても同様でしょう。)

  さらにいうと、こうやって相手の動作に「何らかの目的を持った動作」のプログラム≒相手の気持ちや意図を読み取ろうとする脳の癖がサルや私たちにはあるために、本当はそこに何の考えも、目的も意図もないものを「擬人化」して、そこに何らかの「気持ち」や「意図」を意味付けしてしまうところが、私たちにはあるのです。例えば、前回の話題でお話ししたトゲウオの行動やカモメの行動を思い出してください。本当は「リリーサー」と「決まり切った行動パターン」の連鎖反応による行動であり、本当はそこに何の考えや意図や気持ちなどないのに、私たちはついつい「オスのトゲウオはライバルのオスがナワバリに入ってくると追い払おうとする」とか、「でも、メスがやってくると求愛行動をしてセックスしようとする」とか、「カモメは巣から転げ出た卵をもとの場所に戻そうとする」とかいうように、「意図」や「気持ち」、目的性を解釈してしまうのです。

 

  さて「目的を持った動作」が、それこそ「テーブルの上にあるナッツを手にとって食べる」というようなサルでもできるような簡単なものではなく、道具をつくったり使ったりするような、かなり複雑なものになってくると、そこに表象される「こうしたいという気持ち」や「意図」も、かなり複雑になり、それこそ「意識的」とか「意図的」と表現できるようなものになってきます。

 

  こうしたことを、進化における「道具とつくり使う能力」の獲得に関連して、さらに考えていきたいと思います。

 

 

参考書

Castle A, et al.  The mirror neuron system: a fresh view.  The Neuroscientist 17(5) 524 –538.