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心のこと…

「医科心理学」の知識を遊ぶ

こぼれ話;一緒に歌うと仲良くなれる?

   人類にとって「歌」はサルにとっての「毛づくろい」から発展してきたとすると、サルにとっての「毛づくろい」が群れの仲間同士の絆を深めることに役立っているだろうことを考えると、人類にとっての「歌」にも同じ役割があったのだろう、と思えます。

 

  そして、私たち人類の遠い祖先が「歌」によって仲間同士の絆を深め、群れ(社会)をつくり維持していただろうということは、現代に生きる私たちにもその能力が残されている可能性は高いはずです。

 

  本当にそうなのか? 私たちは仲間同士で一緒に歌ったり踊ったりすることで、仲間同士の絆が深まり、仲間意識が強まり、お互いにポジティブな気持ちが持ちやすくなり、ひいては生産性の向上につながるものなのか?

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  どうやら、本当にそうらしいのです。

 

  例えば、Kreutz先生たちの研究では、集団で歌を歌った場合と、集団でただ喋っていた場合を比較して、歌を歌った場合の方がポジティブな感情がより強まり、ネガティブな感情が減り、さらに「愛と勇気と絆のホルモン」と呼ばれているオキシトシン oxytocinの分泌がより良くなったことが示されています。

 (脳下垂体後葉から分泌されるペプチド系ホルモンであるオキシトシンは、古くから子宮収縮や乳汁射出を促すホルモンとして知られていましたが、最近では中枢神経系への働きとして、「愛のホルモン」あるいは「社会性のホルモン」として知られるようになっています。つまり、男女間であれ、仲間関係であれ、人と人とのつながりを強め、愛を強め、相手のためなら自分を犠牲にしたり多少のリスクは引き受けるようになるなど勇気を高める作用があることがわかってきたのです。男女間においては、恋人同士が物理的・身体的に近くにいることで分泌が多くなり、セックスでオルガスムに達すると分泌は最大限にまで達します。こうして、一緒にいる恋人との「愛」と「絆」を深めることに役立っているわけです。また社会的には、一緒にいる相手に対する信頼感が増し、仲間意識が増し、共同作業をしやすくなることに役立っていることも知られているのです。)

 

   また、Wiltermuth先生とHeath先生たちの研究では、大勢の被験者の人たちにグループをつくってもらい、「みんなで歌って踊ってみたグループ」、「みんなで歌ってみたグループ」、「(みんなではなく)一人一人で歌って踊ってみたグループ」、そして「歌ったり踊ったりしなかったグループ」にわけて、グループ内での共同作業が必要なゲームをしてもらいました。その結果、「みんなで歌って踊ってみたグループ」と「みんなで歌ってみたグループ」ではグループのメンバー同士の協調性が良くなり、利他的な行動が増えることが示されたのです。

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(面白いことに、ただ「一緒にだらだら歩くこと」と「歩調を合わせてみんなで行進してみること」を比較すると、後者の方がよりグループの協調性が高まったことも示されています。つまり、リズムに合わせて一緒に何かをすること、一緒に歌うこと、一緒に踊ること、こうした行動には、やはりグループの凝集性を高め、協調性を良くし、集団・社会としての生産性を高める効果があろうことが示されたのでした。)

 

…なんと、驚きです。 私たち現代に生きる人類も、こういうところはサル人間や原始人の頃と何一つ変わっちゃいなかったのです。私たち現代人も、仲間で集まって、みんなで一緒に歌ったり、踊ったり、リズムに合わせて身体を動かし合うだけで、仲良くなれる潜在能力を持っていたのです。

 

  こうしてみると、今となっては古い昭和の時代から、なぜ学校で、職場で、軍隊で、そういった協力性・協調性が重視される集団では、みんなで一緒に歌を歌ったり、ラジオから流れる音楽に合わせてみんなで体操したり、行進曲に合わせてみんなで行進したりしていたのか?という理由がわかります。こうした集団活動は決して前時代的で非合理的な習慣などではなかったのです。それどころか、集団の凝集性を高め、協調性を高め、ひいては集団の生産性・競争力を高めるための極めて合理的な手段だったのでしょう。「そんな前時代的な…」と思われるかもしれませんが、人類進化の大きな流れのなかで、私たちの脳は十年ひと昔どころか数万年くらいではそう大きくは変化しないのです。

 

 

 

参考書

 Kreutz G.  Does Singing Facilitate Social Bonding?  Music & Medicine, 2014; 6: 51-60.

 

Baimel A, et al.  Enhancing "Theory of Mind" through behavioral synchrony.  Frontiers in Psychology, 2015: Article 870.

 

Schllenberg E.G., et al.  Group music training and children's pro social skills.  PLos ONE, 2015; 10: e0141449.

 

Kirschner S & Tomasello M.  Joint drumming: social context facilitates synchronization in preschool children.  Journal of Experimental Child Psychology, 2009; 102: 299-314.

 

Wiltermuth S & Heath C.  Synchrony and cooperation.  Psychological Science, 2009; 20: 1-5.