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心のこと…

「医科心理学」の知識を遊ぶ

進化論の話4

言葉と音楽の由来

 

  私たち人類の祖先はいったいどうやって「言葉」を持つようになったのか? (これは、おそらく他の動物にはないであろう「私」という意識を持つことにも関係してきます。)

 

  進化心理学の分野で一般的に言われているのは、「言葉」の由来はサルの毛づくろいに遡ることができる、というものです。

 

  いったいどういうことなのか?

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  私たち人間もサルの仲間ですが、サルたちは一般的に群れという社会をつくって共同生活します。 群れを作って生活することには生存競争上の明らかな利点があって、サル以外の他の動物たちも群れを作ることが多いものです。 ただサルたちがつくる群れは、直接的な血族関係にないものも構成員に含めて、ある程度柔軟性のある複雑な階級社会です。こうした複雑な社会(群れ)をつくり維持していくには、ある程度以上の知能が必要であり、実際にサルたちがつくる群れの大きさは、そのサルたちの持つ脳の大きさの(大脳皮質の大きさ)とよく相関することが知られています。 逆に言うと、サルたちは大きく複雑な社会(群れ)をつくり維持していく必要性から、大脳皮質を発達させて進化してきたのだろう、と見られているほどなのです。

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 さて、そのサルたちが社会(群れ)の維持に欠かせない、絆を形成する道具としているのが、サルたちが他のメンバーのサルたち同士で行う「毛づくろい」という相互的な行動です。サルたちが仲間同士で行う「毛づくろい」という行動には、コミュニケーションという重要な意味合いがあったのです。

 

  ところが、基本的に「毛づくろい」にはある程度の時間がかかるうえに、一対一でしか行えません。 このため、人類の遠い遠い祖先の脳が大きくなり、群れを大きくすることが可能になってきても、群れが無制限に大きくなることはできません。現実的に、サルたちは「毛づくろい」だけして一日を終えるわけにいきませんから、仲間同士でのコミュニケーションである「毛づくろい」にさける時間は一日の活動時間のうち2割程度が限界だと見られています。すると、単純に計算すると群れの大きさは70〜80個体が限界になるのです。

 

  それ以上、大きく強い社会(群れ)をつくり維持していくにはどうしたらいいのか? 「毛づくろい」以外のコミュニケーションの仕方が必要になります。

  サルのうちいくつかの種類のものは、「毛づくろい」をしながらハミングのような声をあげることが知られています。そして、そうしたサルたちは、そのうち「毛づくろい」ではなく「ハミングのような声をあげること」をコミュニケーションに使うようになったのだろうと考えられるのです。これなら、「毛づくろい」のように一対一の制限がありませんし、数人(数匹?)以上で一緒にやることができます。

 

  おそらく現代の人類に直接つながる人類の祖先はアフリカで発祥したのだろうと考えられていて(いわゆる「アフリカのイブ」と「アフリカのアダム」です)、今のブッシュマン(サン人)が原型だろうと見られています。そして、彼らの社会(群れ)の大きさはだいたい150〜200個体なのです。

  そして、複雑な現代社会に生活する私たちも、普通の意味で「仲間」として認識できる限界は150〜200個体だろうと言われています。

 

  今となっては化石となってしまっている人類の祖先のようなサル人間たちの脳の大きさから推定すると、おそらく現代の人類にかなり近いネアンデルタール人の頃には社会(群れ)の大きさは150〜200人くらいになっていたのだろうと見られます。 「毛づくろい」に頼った社会の大きさの限界である70〜80個体をはるかに上回ったこの数の個体を「仲間」として認識し社会をつくっていく能力は、脳が発達するだけでなく、声によるコミュニケーションが発達する必要性があったのです。

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  ただ注意してください。この段階では「声によるコミュニーション」という表現をしていて、「言葉」だとは言っていません。

  一部のサルたちが「毛づくろい」の時に発するハミングのような声は、(感情などを表現しコミュニケーションする)「歌」に近いものであって、決して複雑な意味を伝えたり物事を考えたりする道具でもある「言葉」ではないのです。

  こうした状況は、おそらくネアンデルタール人の頃(「アフリカのイブ」が地上に降り立つちょっと前、約35万年前頃)まで続いていたのだろうと見られます。ネアンデルタール人は、おそらく歌を歌うこと、それによって感情をコミュニケーションしあったり、仲間の絆を深めることはできても、複雑な意味を伝える「言葉」は持っていなかったのだろう、と見られているのです。歌を歌うこともでき、火を使うこともでき、死んでしまった仲間を弔うことさえできていたであろう彼らにも、「言葉」を使うこと、「言葉」による「自分」という意識のもとで言葉による思考を進めていくことは、たぶんできなかったのです。

 

 

参考書

Dunbar R, Barrett L, Lynette J.  Evolutionary Psychology.

Dunbar R.  Bridging the bonding gap: the transition from primates to humans.  Phil. Trans. R. Soc. B, 367: 1837-1846.

Lieberman P & McCarthy R.  Tracking the evolution of language and speech.  Expedition, 49: 15-20.