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心のこと…

「医科心理学」の知識を遊ぶ

進化論の話2

今の人類は20万年ほど前からだいたいこんな感じだった

 

  私たちが中学生、高校生だった頃は、世界各地で見つかった化石化した「何とか原人」が現代人類の遠い祖先であるかのような書き方をした教科書が普通にありました。 そんな「何とか原人」を見て私たちはこう思ったものです:「じゃあ、ネアンデルタール人が今のヨーロッパ人になって、北京原人が今のアジア人(日本人を含む)になったのか?」

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  …当然、違います。ああいった「何とか原人」は今の人類に遺伝子を継承した本当の意味での人類の遠い祖先だったのではなく、長い長い進化のプロセスの中で滅んでいった憐れな猿人間にすぎなかったのです。

 

  そして、今の人類につながる遠い祖先は、今のヨーロッパ人も、今のアフリカ人も、今のアジア人も、アメリカ大陸やオーストラリア大陸の原住民たちも、みんな共通してアフリカで発祥したことがわかっています。

 

  なぜそんなことがわかったのか? なぜそんなにわかりきったことのように言うのか? どこにそんな証拠があるのか?

 

  今の私たちにつながる人類がどのように遺伝子を残してきたのかは、その遺伝子そのものを調べればわかります。普通の染色体に乗っている普通の遺伝子は、親から子に引き継がれるときに、遺伝子に変異(ばらつき) variationをつけるために、わざと組み替えをします。そのうえ、父親からの遺伝子と母親からの遺伝子がちょうど半々くらいに混ざり合うので、世代を超えての遺伝子の継承を追跡するのは大変です。
  ところが、例外があります。女系で継承をされるミトコンドリア遺伝子と、男系で継承をされるY染色体遺伝子です。
  ミトコンドリア遺伝子とは、その名の通り、ミトコンドリアの遺伝子です。私たちの身体を作る細胞には、細胞がエネルギーとして使うATPを大量に作り出す「細胞内小器官」としてミトコンドリアというものがたくさんあります。実はこのミトコンドリアというものは、私たち「真核生物」が進化してくるプロセスで、他のバクテリアの一種を取り込んだものが原型になっています。その名残で、ミトコンドリアは独自の遺伝子DNAを持ち、私たちの細胞の中で独自に増えていくのです。ミトコンドリア遺伝子は、私たちの身体の細胞をつくる遺伝子と同様に、その複製の際にかなり細かくチェックされ、そうそうコピーエラーが起こらないようにできています。そうではあっても、ほんの時々、ある一定の確率で変異 mutationを生じてしまうのです。
  さて、父親と母親が子どもをつくるとき、父親精子を、母親は卵を持ち寄ります。精子はとても小さいうえに、精子が卵に入り込むとき(受精するとき)に、卵の内側に取り込まれるのはほとんど遺伝子のある核の部分だけです。ミトコンドリアは持ち込めません。つまり、子どもが引き継ぐミトコンドリアは母親由来の卵にあったものだけになります。子どもが男の子の場合、彼が大きくなって子どもをつくることになっても、彼が子づくりに提供するのは精子であるために、彼が母親からの引き継いだミトコンドリアがその次の子どもに引き継がれることはありません。子どもが女の子の場合だけ、母親からの引き継いだミトコンドリアがさらに次の世代に引き継がれていくことになります。結果として、ミトコンドリアは女系で代々引き継がれていくことになるのです。
  先ほどお話ししたように、ミトコンドリアは複製を繰り返していく中で、ほんの時々だけ、だいたい一定の確率で変異を生じます。このためオリジナルなミトコンドリア遺伝子からいくつ変異を越したのかを数えれば、だいたいそれまでにどのくらいの時間が経ったかを確率的に計算することができます。さらに、どの変異がどのように引き継がれていったかという遺伝子の変異の履歴を見ていくことで、今の時代に生きている女性たちの遺伝子がいつくらいにどこから来たのかを推定していくことができるわけです。
  男系で継承されるY染色体遺伝子も同様です。Y染色体とは性染色体です。性染色体が「XX」だと女の子になり、これが「XY」の組み合わせになると男の子になります。母親の卵由来の性染色体は「X」しかありませんから、決定するのは父親由来の精子に含まれている性染色体が「X」であるか「Y」であるかになります。精子に由来する性染色体が「Y」だと子どもは男の子になり、「X」だと女の子になるわけです。ここまでは、おそらく中学生、高校生でもやる程度の内容です。ですがポイントはまさにここで、Y染色体父親からの息子にのみ継承されるということです。その息子が大きくなって子どもをつくるときに、女の子が生まれると、もう父親からの引き継いだY染色体は引き継がれなくなります。息子の子どもが男の子であった場合にだけ、父親からの引き継いだY染色体は引き継がれていくことになるわけです。女性にとってのミトコンドリア遺伝子の場合と同様に、今の時代に生きる男性たちのY染色体の変異の履歴を調べていくことで、彼らの遺伝子がいつどこから来たのかを追跡していくことができます。
  こうして、男性・女性別々に遺伝子の流れを追うことができるのです。これを使って、世界中に住むいろいろな男女から遺伝子をサンプリングして、彼ら・彼女らの遺伝子的な由来を追ってみます。 すると、驚いたことに、世界中のすべての人類の女性は約20万年前〜15万年前のアフリカに住んでいた一人の女性(これを便宜的に「アフリカのイブ」と呼びます)に、そしてすべての男性は約6〜5万年前にアフリカに住んでいた一人の男性(これを「アフリカのアダム」と呼びます)に、由来することがわかったのです。

 

  そう、ネアンデルタール人がヨーロッパ人になったのではなく、北京原人がアジア人に進化したのではなかったのです。この「アフリカのアダム」がアフリカの真ん中あたりに発祥してから比較的すぐに、「アダム」と「イブ」の子孫たちである人類の大移動が始まり、あっという間に(とは言っても数万年かかるわけですが)人類は世界中に散らばっていった…ということなのです。

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  おそらく、この頃から今の人類はほとんど遺伝子的には違わないはずです。つまり、現代人類の身体の作りも、心の動き方のパターンも、この大昔に獲得されたまま、そう大きくは変わらないまま、今の時代にまで引き継がれているのだろうと見られているのです。(「進化」というプロセスに要する膨大な時間の中では、たかだか数万年なんてあっという間の出来事だからです。こんな短い時間の中では遺伝子はそう大きくは変わりようがないのです。)

 

 

参考書
Wells Spencer. The Journey of Man.