心のこと…

「医科心理学」の知識を遊ぶ

男と女のラブゲーム 3

   原始時代の昔から、女性たちは(自分の遺伝子の生存可能性を最大にすべく)「浮気extra-pair couplation=EPC」という方法を使っていた…というお話をしました。 女性が浮気をするということは、その浮気のお相手の男性もいる、ということです。 要するに、男も女も浮気をしてきたわけです。

 

  これは困ります。 特に、今のような医学的に子どもが本当に自分の生物学的・遺伝子的な子どもなのかどうかを調べる方法もなかった時代、男性にとって女性の浮気は自分の遺伝子の存続の危機になってしまうわけです。 (この、男性には自分が本当の父親なのかどうか不確実さが残ってしまうという問題は、Paternal Uncertaintyという用語でよく知られています。)

  一方で、生きていくことが今よりもずっと過酷だった原始時代において、女性にとっても男性が浮気をして、その浮気が本気になってしまって、自分と子どもをおいて出て行かれるようなことがあったら、これまた自分と子どもの、そして遺伝子の、存続の危機になってしまいます。

 

  このため、自分は浮気をしたいのだけれども、パートナーの浮気は何としても防がなくてはいけない、という奇妙な状況になってきます。 どうやって阻止するか? まずできることは、パートナーが他の異性に惹かれていくのを嫌がって見せることです。 つまり「嫉妬 jelousy」をアピールすることです。

 

  ただ、パートナーの浮気といっても、男女ではその嫌がる意味が違ってきそうです。 つまり、男性にとっては、パートナーの女性が「一夜限りの浮気」でもして、他の男性とセックスをしてしまうこと(=他の男性の精子を取り入れて妊娠してしまうリスクがあること)が自分の遺伝子の存続の危機であり、困ったことです。 しかし女性にとっては、パートナーの男性の浮気が本気になってしまい、自分と子どもをおいて出て行かれることが自分の遺伝子の存続の危機であり、困ったことです。

 

  ということは、理屈的には、男性はパートナーの身体の浮気を嫌がり、女性はパートナーの心の浮気を嫌がる、ということになりそうです。 本当にそうなのか?

 

  実際にたくさんの男女を集めて調査します。今のパートナーが浮気をすることを想像して、あるいは過去に実際に浮気をされた経験がある人にそのことを思い出してもらって、パートナーの浮気のどんな側面が辛いのか? を聞くのです。 「パートナーが他の異性に心が離れなくなってしまうこと」が辛いのか? あるいは「パートナーが他の異性とセックスを楽しむこと」が辛いのか?

  まあ、どっちも嫌です。 ですが、どっちかを選ぶように言われると、確かに予想通りに、男性は「身体の浮気」を嫌がることが多く、女性は「心の浮気」を嫌がることが多い結果になったのです。

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  そう、なぜ「嫉妬」などという感情を私たちは持っているのか? ということの答えは、私たちの遺伝子が生き残るためです。 嫉妬という心を持ち、それをパートナーにアピールし続けることで、パートナーの浮気を阻止する行動パターンを持っていたものが、男も女もより多くの遺伝子を残すことができ、結果としてそのような行動パターンをコードする遺伝子が生き残って現代人にまでつながっている、ということなのでしょう。

 


参考書
Schützwohl A, et al. Which Infidelity Type Makes You More Jealous? Decision Strategies in a Forced-choice Between Sexual and Emotional Infidelity. Evolutionary Psychology, 2004; 2: 121-128.

Edlund JE. Sex Differences in Jealousy in Response to Actual Infidelity. Evolutionary Psychology, 2006; 4: 462-470.

男と女のラブゲーム 2

  原始時代から密かに続く女性たちの遺伝子継承戦略の重要な一つとして「浮気 extra-pair couplation」があったのだろう…ということをお話ししてきました。 女性たちは、特にイマイチな男性と一緒にいる女性たちは、妊娠可能性が高まる排卵日前になると急激に浮気願望が高まり、浮気行動が増えていくのです。

 

  彼女たちには、浮気をさらに容易にするために、排卵日前になると性的な魅力がぐっと高まる、という性質があることもわかっています。 しかも、彼女たちの性的関心も、性的魅力も、普段から一緒にいる正規の配偶者に向かうのではなく、浮気相手のイケメン男性に向かうのです。

 

  例えば、女性たちは一般に排卵日前になると顔がキレイに魅力的になることが知られています。 これは、おそらく表情の作り方が変わるためでしょう。 排卵日前になると性的に魅力的な表情の作り方になってくるのです。

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  顔だけではありません。 声も排卵日前になると魅力的な声に変わることもわかっています。 これはどうやら性ホルモンの影響を受けいているようであり、経口避妊ピルをつかって人工的に性ホルモンの変動をなくしてしまうと(排卵も妊娠もしないようにしてしまうと)、声が魅力的に変化することもなくなってしまうことも知られています。

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  他にもいろいろあります。 どうやら、女性たちは排卵日前になると赤〜ピンク系の色合いの、性的に誘惑的な服を好むようになったり、歩き方、身体の動かし方がいちいちセクシーになったり、なんかいい匂いがするようになったり、実に多面的に性的な魅力が一気に増すことが知られているのです。 残念ながら、すべて浮気のためです。 普段から一緒にいる配偶者を相手に、ことさら性的魅力をアピールしてもしょうがないですし、実際に彼女らがこうしたアピールをするのは、外に出ていく時なのです。 そう、こまったことに、普段からイマイチな男性と一緒にいる女性たちは、排卵日前になると外に出かけて行き、出会いを求めていく傾向が強いことまでわかっているのです。 おそらくそうなのだろうと信じたいですが、彼女たちのほとんどは、意識的に浮気をしてやろうと思ってこのように身体的・行動的な変化を起こしているのではなく、遺伝子的にプログラミングされた、非常に無意識的なプロセスで、このようなことになっているのでしょう。 私たちが「自分」だと思っている私たちの意識的な心は、決して私たちの行動を支配する、私たちの心の本当の主人ではないのです。

 

参考書

Roberts SC, et al. Female facial attractiveness increases during the fertile phase of the menstrual cycle. Proc. R. Soc. Lond. B (Suppl.) 271, S270–S272 (2004).

 

Pipitone RN & Gallup Jr GG. Women's voice attractiveness varies across the menstrual cycle. Evolution and Human Behavior 29 (2008) 268–274.

男と女のラブゲーム 1

  配偶者選択 mate choiceにおいて、女性が男性に求めるいくつもの条件についてさんざん見てきました。 しかし、同時に、そんなにいくつもの条件をすべてキレイに満たす男性なんてそうそういないという現実があります。 希少価値です。 そんな希少価値の男性にばかり女性たちが集まって行ったら、とんでもない過当競争になってしまいますし、結果として遺伝子を残せない男女がものすごく増えてしまいます。 これは、いけません。

 

  では、原始時代の女性たちはいったいどうやってこの難局を乗り切って来たのか? どうやって男性よりもはるかにしぶとく生き延びて来たのか? (女性の方が男性よりもはるかにしぶとく生き延びる傾向があることは、アダムとイブの年代差のところでお話ししてきました。)

 

  実は、同じような難問にぶつかっているのは、なにも私たち人類だけではありません。 ほとんどの動物は、メスがオスを選びます。 たくさんのメスたちが遺伝子的に良いオスを奪い合うことになります。 美しいメス(≒遺伝子的に優れたメス)は良い遺伝子を持ったオスを得ることができますが、ほとんどの「それほど美しいわけではない」メスたちは、それにありつくことができません。 彼女らは、遺伝子的にそれほど好ましくないオスを、しぶしぶながら(?)、配偶者にします。 では、配偶者選択の競争に負けた彼女らはただ泣き寝入りしているかというと、そうではないのです。 彼女らは時々、正規の配偶者のオスの隙を狙って浮気(学問的にはextra-pair couplation=EPCと呼ぶことが多いです)をして、遺伝子的に優良なオスの精子をもらって来て、それを正規の配偶者のオスの子であるかのように、何食わぬ顔でこっそり育てていくことをするのです。

 

  そうです。 私たち人類の祖先の女性たちがやっていたことも、おそらくこれだろと見られているのです。 つまり、女性たちの中でもとりわけ美しい女性は、理想的な夫を手に入れることができたでしょう。 しかし、それほどでもない大勢の女性たちは、イマイチな男性を、しぶしぶ、生活のために、とりあえず配偶者としてキープすることをしたのです。 そうしておきながら、時々、夫のいない隙を狙って浮気EPCをしては、イケメンで遺伝子的に優良な男性の精子をもらってきて、何食わぬ顔でこっそり妊娠して、自分と正規の夫の子であるかのように、育てて行ったのでしょう。 まあ、今だったら血液型も遺伝子診断もありますから、こんなことは無理でしょうが、原始時代から長らくずっと、女性たちにはこれが可能だったのです。

 

  そんなバカな!? と思うかもしれません。 私たち人類の祖先の女性たちは、そんな悪女ばっかりだったのか!?

 

  しかし、残念ながら、本当にそうだったようなのです。 その間接的な証拠に、現代に生活する私たち現代人の女性にもその名残があります。

 

  例えば、以前の話題で、自分と近い遺伝子・MHC型を持っている男性と(しぶしぶ)結婚せざるを得なかった女性たちは、こと性的なことに関しては、とても不満でありがちなことがわかっています。 彼女らは夫に対して、そもそもあまり性的に魅力的だと感じませんし、それほどセックスもしたくないですし、してもあまり感じないですし、オルガスムに達することもあまりありません。 (この女性がオルガスムに達しないということがいったい何を意味するのかは、このもう少しあとで、「女性による秘密の配偶者選択 female cryptic mate choice」のところでお話しします。) そのうえ、彼女らは(妊娠可能性が高まる)排卵日前になると、浮気を夢見るようになり、実際に浮気行動をしがちになることも知られています。 (もっとも、現代社会では、もし妊娠してしまったら医学的検査で子どもの本当の父親がバレてしまいますから、彼女らは浮気をする時には避妊をすることでしょう。 ただ、この排卵日前の浮気という行動パターンだけは、原始時代から生得的に、遺伝子的にプログラミングされたものとして、残っている、ということなのです。)

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  MHC型の問題だけではありません。 男性がイケメンであることや、男らしいセクシーな身体つきをしていることなど、性的な魅力に欠けた≒遺伝子的に優良である特徴にかけた、イマイチな男性を夫にせざるを得なかった女性たちは、特に排卵日前になると、一気に浮気願望が強まり、実際に浮気行動をしてしまう傾向があることがわかっています。 (そして、夫の方は夫の方で、妻のこうした行動を阻止しようと、妻の排卵日が近づくと、他の男性たちを寄せ付けまいとガードする行動が増えることも知られています。 どちらの側も、大部分は無意識的に動機付けられた行動なのですが、それぞれの立場の損得に実にうまいこと合っているわけです。)

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  ところで、なぜ女性の浮気行動が増えるのは排卵日前なのでしょう? 当たり前です。 普段から浮気行動ばかりしていたら、正規の配偶者の男性に逃げられてしまうに決まっています。 普段はおとなしくしていて、ここぞという時にだけ(つまり、妊娠可能性が高まる排卵日前にだけ)ささっと浮気行動をする、というわけです。

 

  そして、動物たちと同様、こうした浮気行動をする女性たちというのは、イマイチな男性を夫とせざるを得なかったイマイチな女性たちなのです。 動物の世界と同様に、とても美しい女性は、そもそも最初から満足な相手の得ていることが多いので、わざわざ浮気をする必要性などないわけです。 とはいえ、男性は心配性なので(男性が心配性なのは、原始時代は自分が本当に子どもの生物学的・遺伝子的な父親なのかどうかを知るすべがなかったからです。この問題はpaternal uncertaintyの問題としてよく知られているものです。)、運良く(?)とても美しい女性を配偶者にしてしまった男性は、彼女の排卵日前だけでなく、いつもいつも、彼女をガードする行動をとりがちなことが知られています。 まあ、大変ですね。

 

 

参考書

Gangestad SW, et al.  Changes in women’s sexual interests and their partners’ mate-retention tactics across the menstrual cycle: evidence for shifting conflicts of interest.  Proc. R. Soc. Lond. B (2002) 269, 975–982.

 

Haselton mG & Gangestad SW.  Conditional expression of women's desires and men's mate guarding across the ovulatory cycle.  Hormones and Behavior 49 (2006) 509–518.

 

Garver-Apgar CE, et al.  Major Histocompatibility Complex Alleles, Sexual Responsivity, and Unfaithfulness in Romantic Couples.  PSYCHOLOGICALSCIENCE, 2003; 17: 830-835.

 

Roberts SC, et al.  Female facial attractiveness increases during the fertile phase of the menstrual cycle.  Proc. R. Soc. Lond. B (Suppl.) 271, S270–S272 (2004).

 

Pipitone RN & Gallup Jr GG.  Women's voice attractiveness varies across the menstrual cycle.  Evolution and Human Behavior 29 (2008) 268–274.

 

アダムとイブの争い 9

 原始時代から女性たちが配偶者(恋人)となる男性に求めてきたのは良き種馬になること(優良な遺伝子を提供してくれること)だけではありませんでした。

  当然です。人間は他の哺乳類たちに比べて一人前になるまでの時間が長すぎるのです。子どもを産んだ母親一人で育てていくのはリスクが大きすぎますし、大変すぎます。どうやっても優しく誠実で自分と子どもの幸せのために忠実に働いてくれる男性が、強い生活力・経済力を持った男性が、必要なのです。

  そう、女性が配偶者選択 mate choiceにおいて男性に求めるもう一つの側面は、ここです。優しさと誠実さ。そして生活力・経済力の強さです。

  男性の持つ生活力・経済力の強さは、その人の暮らしぶりを見ていればわかります。

  では、優しさや誠実さはどうか? どうやら、女性たちの多くは男性の顔をみるだけで、その男性がどれだけ優しく誠実で子育てに協力的になってくれるかをかなり正確に推定しているようであることが知られています。女性が顔で男性を選ぶのにはなるほど理由があるのです。

 

  ただ、ここからいくつかの問題が生じてきます。

 

  一つは、これらいくつもの条件を都合よく満たす男性なんてそうそう存在しないということです。だいたいにおいて、遺伝子的な魅力・「男らしさ」と優しさ・誠実さは、なかなか両立が難しいことも知られています。(これは遺伝子的に健康優良で「男らしい」男性は、自分が「売り手市場」であることがわかっていることもあって、どうしても不誠実に多くの女性に手を出してしまう浮気者の傾向があるからです。さらに男性ホルモンが良好に作用しているおかげというか、そのせいで、ますますその傾向は強まります。このため、「良い男」が「人の良い男」であることは、とても難しいのです。)では、女性は自分が(自分の遺伝子が)生き残るにはどうしたら良いのか?

 

  もう一つの問題は、生活力・経済力はその男性個人の努力以外の努力が可能だということです。遺伝子的な優良性はうまれつきであって、その人の努力でも、誰の努力でも、どうにもならないところがあります。ところが、「(経済的に)良い生活をすること」「強い経済力があること」は、本人の努力でどうにかできるところもありますし、何よりも親がお金をかけてあげることができる部分です。

  ここが問題なのです。女の子はお金がなくてもモテることができます。昔話でも、貧しい女の子が王子様にみそめられて「玉の輿」に乗るのは珍しいことではなく、むしろ一般的です。ところが、逆はないのです。貧しい男の子はモテないのです。この事実から、自分の遺伝子を残したい両親はどう動くか? 答えは簡単です。息子にはお金をかけ、娘にはお金をかけないようにするのです。息子には勉強をさせて「良い学校」に行かせ、将来高い社会経済的地位につかせ、「良い生活」をさせるようにさせるのです。そうやってモテるようにさせるのです。一方で、娘はそこまでする必要はありません。貧しくたって、社会経済的地位が多少低くたって、「王子様」が現れてくれる可能性が高いからです。

(これは実はよく知られた事実です。女性はどうしても自分よりも社会経済的地位が高い男性と結婚したがる傾向があるのです。逆にいうと、女性は社会経済的地位が多少低くても結婚相手は見つかるのです。それに対して、男性はその可能性はあまりありません。女性が自分よりも社会的地位や稼ぎが低い男性をいやがるからです。これは原始人の頃から私たち人間が持って生まれた本能的な習性のようなもので、理屈抜きの、どうしようもない傾向なのです。)

  このため、世界各地に見られる「男尊女卑」という「男女差別」が生じてきます。なんと、男女差別の根本は、男性が女性よりも優位に立つためではなかったのです。自分たちの遺伝子を少しでも高い確率で残したかった両親のエゴによって成立してきたのです。

  例の親投資 parent investmentの問題です。限りある財産を子たちにどのように使っていくことが、自分の遺伝子をより効率よく残してゆけるか? その結果として、男の子には手をかけお金をかけ大事にそだて、女の子はそこまでしなくて育てていく…。その結果として、男は女よりも偉く大事にされる存在なのだと勘違いする考え方がうまれてくる。

  この問題はさらにとんでもない、身もふたもない話に発展するので、その話はまたこの次に。

 

 

参考書

Rodney JR, et al. Reading men’s faces: women’s mate attractiveness judgments track men’s testosterone and interest in infants. Proc. R. Soc. B (2006) 273, 2169–2175.

アダムとイブの争い 8

   女性が男性を「恋人」「配偶者」として選ぶとき、特に自分の遺伝子とかけあわせる「交配」の相手として(セックスの相手として)選ぶとき、これまでお話ししてきたことのほかにも、まだまだ基準があります。 そのうちとても重要なものが「肉体的な男らしさ」です。

 

  これまた一体どういうことか? 相手の男性が肉体的に「男らしい」ということに、一体どんな遺伝子的なお得感があるというのか?

 

  答えは割と簡単です。私たちの体の「男らしさ」「女らしさ」をつくりあげているのは、大部分が性ホルモン sex steroidです。男性では男性ホルモン(テストステロン)、女性では女性ホルモン(エストロゲン)が、それぞれ男らしい顔つきき/体つき、女らしい顔つき/体つきをつくっていくわけです。 ところが、この性ホルモンというのは、分泌の優先度がそう高くはありません。動物たちは、基本的に自分のエネルギーを「自分の体を維持・成長させること」と「子づくり・子育てに費やすこと」のどちからに振り分けることをしています。当然、自分の体が満足に維持・成長できていない動物は子づくり・子育てなどにエネルギーを振り分けることなどできなので、後者の方にエネルギーを回すことを目的に使われている性ホルモンは優先順位が低くなるのです。つまり、ずっと長期的に健康で強く生きてきた動物たちだけが性ホルモンを十分に分泌することができるのです。逆に言うと、性ホルモンがムンムンに分泌されてつくられた体を持っているということは、男でも女でも、その人が長期にわたって健康で強く生きてきたこと、そのような有利な生活ができるだけの有利な遺伝子を持っていることの間接的な証拠になるわけです。

(性ホルモンは優先度が低いということは、女性であれば経験的によくお分かりかと思います。女性の性周期は肉体的・精神的なストレスによってすぐに崩れてしまうことをすでに経験している人は少なくないでしょうから。)

 

  では、「男らしさ」(=男性ホルモンの分泌の優良性)は、男性のどこに表れてくるのか? そしてそれを本当に女性たちは的確に捉えることができているのか?

 

  男性ホルモンの影響は、顔のつくりにも、体つきにも、表れてきます。男性は、男性のホルモンの影響でややごつごつした「男らしい」顔つきになるのですし、比較的肩幅が広く脚が短く全身が筋肉質の男性的な体つきにもなります。

(図に体の関節を点で示した男性の体と女性の体を示します。図を見れば一目瞭然のように、男性の体は女性の体よりも肩幅が広く上半身が横に張り出す感じになっています。一方で、体の大きさに比較して膝や股関節の位置が低く、脚が短く、重心が低くつくられていることも見てとれると思います。なぜ男性の体は脚が短く重心が低くつくられているのかというと、これはおそらく戦闘に有利なためだったのだろうと見られています。)

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  そして、女性たちは一般的に、排卵日前の妊娠しやすい時期になると特に、男性ホルモンがムンムンの男らしい顔つき・体つきをした肉体的魅力のある男性を好むようになることがわかっているのです。 驚いたことに、女性が主観的に判断する男性の顔つきの「男らしさ」は、実際にその男性の唾液から測った男性ホルモンの数値とかなり相関することまでわかっているのです。女性は、男性のかおつきの顔つき、体つきなどから、その男性の「男らしさ」=男性ホルモンの状態をかなり的確に測ることができるようなのです。さらに、 女性が男性の顔つきから判断する「男らしさ」は、やはり男性ホルモンの影響下にあると考えられる、その男性の肩幅や筋力の強さともかなり良く相関することも示されています。

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  つまり、女性たちは男性の顔つきを見るだけで、その男性の全般的な肉体的健康度、遺伝子的な優良性をかなり的確に測ることができているのでした。

 

 

 

参考書

Rodney JR, et al.  Reading men’s faces: women’s mate attractiveness judgments track men’s testosterone and interest in infants.  Proc. R. Soc. B (2006) 273, 2169–2175.

 

Shoup ML.  Men’s faces convey information about their bodies and their behavior: what you see is what you get. Evolutionary Psychology, 2008. 6(3): 469-479  

 

Brown MW, et al. Fluctuating asymmetry and preferences for sex-typical bodily characteristics. PNAS, 2008; 105: 12938–12943.

 

アダムとイブの争い 7

  女性が男性を選ぶ時。自分とはどこか似ていて、しかし遺伝子的には離れている相手を配偶者(恋人)として女性は選んでいく、というところまでお話ししました。

 

  しかし、女性が男性を選ぶ基準はまだまだたくさんあります。

 

  そのうちの一つが、相手の男性が顔立ちがよく、いわゆるイケメンで、身体が綺麗に左右対称になっていて、美しいこと…です。 なんじゃ、そりゃ!です。

 

  ですが、このことには重大な意味があります。男性がイケメンであり、顔立ちも身体のつくりも左右対称で美しいことは、彼が生まれつき安定した遺伝子を持っていて、病気になりにくい健康な身体と、そのような身体をつくりだす優良な遺伝子を持っていることの間接的な証拠になるからです。

 

  なんじゃ、そりゃ!? です。 ですが、こういうことです。 つまり、生き物の身体は遺伝子を設計図にしてつくられていきます。しかし、その遺伝子が不安定であったり、感染症に弱かったりすると、身体の左右対称性が悪くなるのです。これは手足などの左右対称性にも表れますし、顔のつくりの左右対称性にも表れます。こうした左右の非対称性を専門的にはFA=fluctuating asymmetryと呼びます。FAが大きいほど、左右の対称性が悪く、遺伝子的に不安定であることを意味するのです。

 

  動物は、特にメスがオスを選ぶ時には、相手のオスが(オスの精子が)優良な遺伝子を持っていることを最優先しますので、多くの動物のメスはオスを配偶者選択する時に、FAが小さいこと、つまり身体の左右対称性が良く、美しいことを条件にします。そして、それは私たち人間においても、その通りだったのです。

 

  身体の左右対称性が以外の情報が見えないようにして、人間の女性に男性の「魅力的な身体」を評価してもらいます。すると、驚いたことに、女性たちは非常に精密に相手の男性の身体の左右対称性を(おそらく無意識的に)測って、左右対称性が高い男性の身体を「魅力的な身体」だと評価する傾向があることがわかったのです。

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  さらに、身体だけではありませんでした。顔の良し悪しもそうです。女性がイケメンだと感じる男性の顔立ちは多くの場合、身体の左右対称性と非常によく相関することがわかってきたのです。実際、左右対称性の良好な男性の顔写真ばかり集めて合成した顔と、左右対称性の悪い男性の顔写真ばかり集めて合成した顔を女性に評価してもらいます。たくさんの顔を合成してつくった顔なので、この合成写真は完全に左右対称性です。にもかかわらず、女性たちは、多くの場合、左右対称性の優れた男性たちの顔写真から合成された顔の方を、より魅力的だと評価する明確な傾向があることが示されたのです。

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(図の男性の顔のどちらをより魅力的だと評価するでしょうか? 私は男性なのでさっぱりわかりませんが、女性はだいたいにおいて「左右対称性の優れた男性たちからつくられた顔」を選ぶようです。)

 

  遺伝子的な優良性。良き種馬となること。女性たちが男性を配偶者(恋人)として選ぶときの基準の大きな部分は、生まれつきによって決まっている、その人の努力ではどうにもならないことによっている、というお話でした。 やれやれ…。

 

 

参考書

Brown MW, et al.  Fluctuating asymmetry and preferences for sex-typical bodily characteristics.  PNAS, 2008; 105: 12938–12943.

 

Peyton-Voac IS, et al.  Symmetry, sexual dimorphism in facial proportions and male facial attractiveness.  Proc R Soc Lond B, 2001; 268: 1617-1623.

 

 

アダムとイブの争い 6

  ネズミにおける配偶者選択 mate choiceでは、メスは匂いによってオスのMHC型が自分と近いか遠いかを知り、メスは自分と遺伝子的には遠く、MHCが大きく異なる相手を配偶者(恋人)として選ぶ傾向がある、ということをお話ししました。

 

  驚いたことに、すべての動物たちがそうだというわけでもないのですが、魚も、鳥も、哺乳類の多くも、同様にメスがオスの匂いによってMHC型を嗅ぎ分け、自分とは遠いMHC型を持つオスを配偶者(恋人)に選ぶ傾向があることがわかってきました。

 

  …ということは、私たち人間でもそうなのか?

 

  実は、そうなのです。人間の女性はわざわざ意識的に男性の匂いを嗅いで性的な対象として好ましいかどうかを判断しているわけではないのでしょうが、実際に結婚している人たちを調査すると、女性たちは偶然よりも高い確率でMHCが遠く離れている男性を配偶者として選んでいるようであることもわかってきました。

 

  そこで、実験です。若い女性をたくさん集めて、男性の匂いを嗅いでもらって、どれだけ好ましいとかセクシーだと感じるかを評価してもらいます。男性の見た目に左右されないように、「男性の匂い」は、サンプルの男性たちに1日着てもらったTシャツを使うようにしたのです。さて、結果はどうなったか?

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  結果は予想通りでした。女性たちは、自分とはMHC型が遠く離れた男性の匂いを魅力的だ、セクシーだと感じる傾向があることがわかったのです。しかも、その傾向は妊娠の可能性がぐっと高まる排卵日前(性周期の卵胞期)にのみ強まること、逆に妊娠の可能性がほとんどない排卵日後(黄体期)や経口避妊ピルを服用して妊娠できない状態にしておくと、その傾向はなくなってしまうことがわかったのです。

  つまり、女性たちはズバリ妊娠する相手として(自分の遺伝子を掛け合わせる相手として)男性を見るときに限って、相手の男性のMHC型が自分とは遠く離れていることを魅力的に感じるのでした。

 

  ところが世の中、需要と供給のアンバランスはいつもあります。すべての女性たちが運良く自分とは遠く離れたMHC型を持つ理想の男性と結婚できるとは限らないのです。では、夫婦でMHC型が近いか、遠く離れているかによって結婚の幸せ度合いは変わってくるでしょうか?

  調べて見ると、結婚全般の幸せ度合いは、そう影響を受けませんでした。しかし、(男性が女性を見た場合はそうでもないのですが)女性が男性を性的な対象として見たときには、MHC型が近ければ近いほど、性的には不満が多くなり、性的に感じにくくなり、オルガスムも少なくなり、他の男性に目が向くことが多くなり、不倫を夢見ることが多くなり、実際に不倫をしてしまうことが増えてしまう…という驚きの結果が示されたのです。

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  …なんと、人間の女性も男性を匂いによって(それによって推定されるMHCの違いによって)選んでいたのか。もちろん、こんなことは人間の女性たちは意識してやっていることではないでしょう。無意識的に好き嫌いに影響を与えているのです。女性たちは、無意識的に(本能的に)排卵日前になると(=妊娠可能性が高まる時期になると)自分とはMHC型が遠く離れた、その意味で遺伝子的に交配するのに好ましい相手にひかれるようになる…。この後で何度も繰り返し見ていくことになりますが、いやあ、無意識の影響力って大きいものです。

 

 

参考書

 Roberts SC, et al.  MHC-correlated odour preferences in humans and the use of oral contraceptives.  Proc. R. Soc. B (2008) 275, 2715–2722.

 

Garver-Apgar CE, et al.  Major histocompatibility complex alleles, sexual responsivity, and unfaithfulness in romantic couples.  Psychological Science, 2006; 17: 830-835.