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心のこと…

「医科心理学」の知識を遊ぶ

アダムとイブの争い 8

   女性が男性を「恋人」「配偶者」として選ぶとき、特に自分の遺伝子とかけあわせる「交配」の相手として(セックスの相手として)選ぶとき、これまでお話ししてきたことのほかにも、まだまだ基準があります。 そのうちとても重要なものが「肉体的な男らしさ」です。

 

  これまた一体どういうことか? 相手の男性が肉体的に「男らしい」ということに、一体どんな遺伝子的なお得感があるというのか?

 

  答えは割と簡単です。私たちの体の「男らしさ」「女らしさ」をつくりあげているのは、大部分が性ホルモン sex steroidです。男性では男性ホルモン(テストステロン)、女性では女性ホルモン(エストロゲン)が、それぞれ男らしい顔つきき/体つき、女らしい顔つき/体つきをつくっていくわけです。 ところが、この性ホルモンというのは、分泌の優先度がそう高くはありません。動物たちは、基本的に自分のエネルギーを「自分の体を維持・成長させること」と「子づくり・子育てに費やすこと」のどちからに振り分けることをしています。当然、自分の体が満足に維持・成長できていない動物は子づくり・子育てなどにエネルギーを振り分けることなどできなので、後者の方にエネルギーを回すことを目的に使われている性ホルモンは優先順位が低くなるのです。つまり、ずっと長期的に健康で強く生きてきた動物たちだけが性ホルモンを十分に分泌することができるのです。逆に言うと、性ホルモンがムンムンに分泌されてつくられた体を持っているということは、男でも女でも、その人が長期にわたって健康で強く生きてきたこと、そのような有利な生活ができるだけの有利な遺伝子を持っていることの間接的な証拠になるわけです。

(性ホルモンは優先度が低いということは、女性であれば経験的によくお分かりかと思います。女性の性周期は肉体的・精神的なストレスによってすぐに崩れてしまうことをすでに経験している人は少なくないでしょうから。)

 

  では、「男らしさ」(=男性ホルモンの分泌の優良性)は、男性のどこに表れてくるのか? そしてそれを本当に女性たちは的確に捉えることができているのか?

 

  男性ホルモンの影響は、顔のつくりにも、体つきにも、表れてきます。男性は、男性のホルモンの影響でややごつごつした「男らしい」顔つきになるのですし、比較的肩幅が広く脚が短く全身が筋肉質の男性的な体つきにもなります。

(図に体の関節を点で示した男性の体と女性の体を示します。図を見れば一目瞭然のように、男性の体は女性の体よりも肩幅が広く上半身が横に張り出す感じになっています。一方で、体の大きさに比較して膝や股関節の位置が低く、脚が短く、重心が低くつくられていることも見てとれると思います。なぜ男性の体は脚が短く重心が低くつくられているのかというと、これはおそらく戦闘に有利なためだったのだろうと見られています。)

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  そして、女性たちは一般的に、排卵日前の妊娠しやすい時期になると特に、男性ホルモンがムンムンの男らしい顔つき・体つきをした肉体的魅力のある男性を好むようになることがわかっているのです。 驚いたことに、女性が主観的に判断する男性の顔つきの「男らしさ」は、実際にその男性の唾液から測った男性ホルモンの数値とかなり相関することまでわかっているのです。女性は、男性のかおつきの顔つき、体つきなどから、その男性の「男らしさ」=男性ホルモンの状態をかなり的確に測ることができるようなのです。さらに、 女性が男性の顔つきから判断する「男らしさ」は、やはり男性ホルモンの影響下にあると考えられる、その男性の肩幅や筋力の強さともかなり良く相関することも示されています。

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  つまり、女性たちは男性の顔つきを見るだけで、その男性の全般的な肉体的健康度、遺伝子的な優良性をかなり的確に測ることができているのでした。

 

 

 

参考書

Rodney JR, et al.  Reading men’s faces: women’s mate attractiveness judgments track men’s testosterone and interest in infants.  Proc. R. Soc. B (2006) 273, 2169–2175.

 

Shoup ML.  Men’s faces convey information about their bodies and their behavior: what you see is what you get. Evolutionary Psychology, 2008. 6(3): 469-479  

 

Brown MW, et al. Fluctuating asymmetry and preferences for sex-typical bodily characteristics. PNAS, 2008; 105: 12938–12943.

 

アダムとイブの争い 7

  女性が男性を選ぶ時。自分とはどこか似ていて、しかし遺伝子的には離れている相手を配偶者(恋人)として女性は選んでいく、というところまでお話ししました。

 

  しかし、女性が男性を選ぶ基準はまだまだたくさんあります。

 

  そのうちの一つが、相手の男性が顔立ちがよく、いわゆるイケメンで、身体が綺麗に左右対称になっていて、美しいこと…です。 なんじゃ、そりゃ!です。

 

  ですが、このことには重大な意味があります。男性がイケメンであり、顔立ちも身体のつくりも左右対称で美しいことは、彼が生まれつき安定した遺伝子を持っていて、病気になりにくい健康な身体と、そのような身体をつくりだす優良な遺伝子を持っていることの間接的な証拠になるからです。

 

  なんじゃ、そりゃ!? です。 ですが、こういうことです。 つまり、生き物の身体は遺伝子を設計図にしてつくられていきます。しかし、その遺伝子が不安定であったり、感染症に弱かったりすると、身体の左右対称性が悪くなるのです。これは手足などの左右対称性にも表れますし、顔のつくりの左右対称性にも表れます。こうした左右の非対称性を専門的にはFA=fluctuating asymmetryと呼びます。FAが大きいほど、左右の対称性が悪く、遺伝子的に不安定であることを意味するのです。

 

  動物は、特にメスがオスを選ぶ時には、相手のオスが(オスの精子が)優良な遺伝子を持っていることを最優先しますので、多くの動物のメスはオスを配偶者選択する時に、FAが小さいこと、つまり身体の左右対称性が良く、美しいことを条件にします。そして、それは私たち人間においても、その通りだったのです。

 

  身体の左右対称性が以外の情報が見えないようにして、人間の女性に男性の「魅力的な身体」を評価してもらいます。すると、驚いたことに、女性たちは非常に精密に相手の男性の身体の左右対称性を(おそらく無意識的に)測って、左右対称性が高い男性の身体を「魅力的な身体」だと評価する傾向があることがわかったのです。

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  さらに、身体だけではありませんでした。顔の良し悪しもそうです。女性がイケメンだと感じる男性の顔立ちは多くの場合、身体の左右対称性と非常によく相関することがわかってきたのです。実際、左右対称性の良好な男性の顔写真ばかり集めて合成した顔と、左右対称性の悪い男性の顔写真ばかり集めて合成した顔を女性に評価してもらいます。たくさんの顔を合成してつくった顔なので、この合成写真は完全に左右対称性です。にもかかわらず、女性たちは、多くの場合、左右対称性の優れた男性たちの顔写真から合成された顔の方を、より魅力的だと評価する明確な傾向があることが示されたのです。

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(図の男性の顔のどちらをより魅力的だと評価するでしょうか? 私は男性なのでさっぱりわかりませんが、女性はだいたいにおいて「左右対称性の優れた男性たちからつくられた顔」を選ぶようです。)

 

  遺伝子的な優良性。良き種馬となること。女性たちが男性を配偶者(恋人)として選ぶときの基準の大きな部分は、生まれつきによって決まっている、その人の努力ではどうにもならないことによっている、というお話でした。 やれやれ…。

 

 

参考書

Brown MW, et al.  Fluctuating asymmetry and preferences for sex-typical bodily characteristics.  PNAS, 2008; 105: 12938–12943.

 

Peyton-Voac IS, et al.  Symmetry, sexual dimorphism in facial proportions and male facial attractiveness.  Proc R Soc Lond B, 2001; 268: 1617-1623.

 

 

アダムとイブの争い 6

  ネズミにおける配偶者選択 mate choiceでは、メスは匂いによってオスのMHC型が自分と近いか遠いかを知り、メスは自分と遺伝子的には遠く、MHCが大きく異なる相手を配偶者(恋人)として選ぶ傾向がある、ということをお話ししました。

 

  驚いたことに、すべての動物たちがそうだというわけでもないのですが、魚も、鳥も、哺乳類の多くも、同様にメスがオスの匂いによってMHC型を嗅ぎ分け、自分とは遠いMHC型を持つオスを配偶者(恋人)に選ぶ傾向があることがわかってきました。

 

  …ということは、私たち人間でもそうなのか?

 

  実は、そうなのです。人間の女性はわざわざ意識的に男性の匂いを嗅いで性的な対象として好ましいかどうかを判断しているわけではないのでしょうが、実際に結婚している人たちを調査すると、女性たちは偶然よりも高い確率でMHCが遠く離れている男性を配偶者として選んでいるようであることもわかってきました。

 

  そこで、実験です。若い女性をたくさん集めて、男性の匂いを嗅いでもらって、どれだけ好ましいとかセクシーだと感じるかを評価してもらいます。男性の見た目に左右されないように、「男性の匂い」は、サンプルの男性たちに1日着てもらったTシャツを使うようにしたのです。さて、結果はどうなったか?

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  結果は予想通りでした。女性たちは、自分とはMHC型が遠く離れた男性の匂いを魅力的だ、セクシーだと感じる傾向があることがわかったのです。しかも、その傾向は妊娠の可能性がぐっと高まる排卵日前(性周期の卵胞期)にのみ強まること、逆に妊娠の可能性がほとんどない排卵日後(黄体期)や経口避妊ピルを服用して妊娠できない状態にしておくと、その傾向はなくなってしまうことがわかったのです。

  つまり、女性たちはズバリ妊娠する相手として(自分の遺伝子を掛け合わせる相手として)男性を見るときに限って、相手の男性のMHC型が自分とは遠く離れていることを魅力的に感じるのでした。

 

  ところが世の中、需要と供給のアンバランスはいつもあります。すべての女性たちが運良く自分とは遠く離れたMHC型を持つ理想の男性と結婚できるとは限らないのです。では、夫婦でMHC型が近いか、遠く離れているかによって結婚の幸せ度合いは変わってくるでしょうか?

  調べて見ると、結婚全般の幸せ度合いは、そう影響を受けませんでした。しかし、(男性が女性を見た場合はそうでもないのですが)女性が男性を性的な対象として見たときには、MHC型が近ければ近いほど、性的には不満が多くなり、性的に感じにくくなり、オルガスムも少なくなり、他の男性に目が向くことが多くなり、不倫を夢見ることが多くなり、実際に不倫をしてしまうことが増えてしまう…という驚きの結果が示されたのです。

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  …なんと、人間の女性も男性を匂いによって(それによって推定されるMHCの違いによって)選んでいたのか。もちろん、こんなことは人間の女性たちは意識してやっていることではないでしょう。無意識的に好き嫌いに影響を与えているのです。女性たちは、無意識的に(本能的に)排卵日前になると(=妊娠可能性が高まる時期になると)自分とはMHC型が遠く離れた、その意味で遺伝子的に交配するのに好ましい相手にひかれるようになる…。この後で何度も繰り返し見ていくことになりますが、いやあ、無意識の影響力って大きいものです。

 

 

参考書

 Roberts SC, et al.  MHC-correlated odour preferences in humans and the use of oral contraceptives.  Proc. R. Soc. B (2008) 275, 2715–2722.

 

Garver-Apgar CE, et al.  Major histocompatibility complex alleles, sexual responsivity, and unfaithfulness in romantic couples.  Psychological Science, 2006; 17: 830-835.

 

アダムとイブの争い 5

   動物たちには(特にメスがオスを配偶者として選ぶときに)「自分とどこか似た特質を持った相手を配偶者として選んでいく」という傾向があり、これによって「似た者夫婦」をつくり、その夫婦がお互いによく似ているところがさらに似ている子供をつくっていく傾向があることを見てきました。いわゆる「類別交配 assortative mating」です。

 

  しかし、問題があります。当然、遺伝子的に近いものたちは、形質的にも似てくるのですが、遺伝子的に近いものは配偶者として避けなくはいけません。病気が増え、死んでしまうリスクが増えるからです。常染色体劣性遺伝をする遺伝病は、遺伝子的に近いものが配偶者になると増えてしまいます。さらに、感染症に対する防御もバリエーションがないと、たった一つの流行病で一族全滅なんてことになりかねません。それでは困るわけです。

 

  そこで、動物たちは、性質・形質的には似ていながら、遺伝子的には離れているものを配偶者として選んでいくことになります。

 

  でも、いったいどうやって?

 

  動物たちが「自己」と「非自己」を、そして「遺伝的に近いもの」と「遺伝的に遠いもの」を見分けてくのは、細胞の表面に突き出ている身分証明書的なタンパク質「組織適合性複合体 major histocompatibility complex=MHC」(人間の場合は、特にヒト白血球抗原LHAと呼ぶこともあります)によります。

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  まずはずいぶん下等な動物を見てみましょう。幼生の間は一人一人で生き延び、成長すると仲間同士で合体してコロニーをつくるホヤの一種Botyllus schlosseriという動物がいます。彼らは、コロニーをつくるときには、遺伝子的に近いものを仲間として選んでいく傾向があるのですが、ここで「遺伝子的に近い仲間」か、そうではない「遺伝子的に遠いもの」かを見分けていくのは、組織適合性タンパク質の一種です。これが近いと合体して一体化したコロニーをつくりますが、遠いと「拒絶反応」を起こしてくっつくことができません。

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  そして、くっつく前から組織適合性タンパク質の違いによって違ってくる分泌物を分泌して、それを信号物質にして、「仲間」と「仲間でない」ものを見分けるコミュニケーションをしているのです。

 

  同じようなことを、もっと高等な動物たちもします。 そのことが最初に発見されたのはネズミでした。

  ネズミも配偶者に選択においては、メスがオスを選びます。(親投資 parent investmentの大きな男女差から、メスの方により選択権があるのは当然です。) その際に、ネズミのメスは自分の組織適合性複合体MHCとは遠く離れた組織適合性複合体MHCを持っているオスを、匂いによって嗅ぎ分け、より好む傾向があることがわかったのです。 こうして、メスのネズミは「似た者夫婦」がつくれるような、自分とどこか似たような性質・形質を持っていながら、遺伝子的には(組織適合性複合体MHC的には)遠く離れた相手を、配偶者として選んでいたのです。

 

  匂いによって「このひとは、私と同じ匂いがする。やめておこう」というような判断をしている動物たち。 ということは、私たち人間もそうなのか? 私たち人間の女性も、男性を配偶者(恋人)として選んでいくときに、相手の匂いによって、相手の組織適合性複合体MHCが自分と近いか遠いかを判断し、自分とは遠い相手を好むようになっているのか?

 

 

参考書

Singh PB.  Chemosensation and genetic individuality.  Reproduction (2001) 121, 529–539.

 

アダムとイブの争い 4

  男女が出会うことも、惹かれ合うことも、決して偶然ではないということ=類別交配 assortative mating(非ランダム交配 non-random mating)の話を続けます。

 

  私たち人類に関してみると、よく知られたところでは、身長、体型(太っている、痩せている)、知能、性格傾向、精神疾患の傾向、などの側面で「似た者夫婦」をつくる傾向があること、つまり、これらの側面で類別交配の傾向があることがよく知られています。(しかも、これらの特性はすべて、極めて遺伝性が高いものであることがわかっています。)

 

  例えば知能 general intelligenceです。知能は非常に遺伝性が強いことも知られていて、だいたい8割は遺伝によって決まってくること(養育環境などの影響はほぼ0とみなして良いほどに影響が少ないこと)がわかっています。

(実際、遺伝子的にはほぼ同一人物とみなすことのできる一卵性双生児の知能の一致度は0.8と高いのに対して、遺伝子的には普通のきょうだいと変わらない一致度しかない二卵性双生児の知能の一致度は0.4程度しかないのです。)

  しかも、この傾向は小児期の知能よりも成人期の知能の方がより強く出ます。つまり、その人が子供のうちは、養育環境による影響もある程度はあり、良い環境で育てられると、ある程度は頭の良い子になるのです。しかし、それも思春期までです。それ以降、成人期になると、その人の知能はほぼ遺伝的な要因だけで決定されるようになります。子供の頃にどんな素敵な教育を受けようが、ほとんど無関係になってしまうのです。

  このため、今回注目している、結婚適齢期の大人の人たちの知能は、ほとんどの部分が遺伝的に決定されていると考えて良いのです。

  さて、面白いのは、知能という側面で、私たち人間には類別交配の傾向がかなりはっきりとある、という事実です。実際、結婚している夫と妻の知能指数の相関をみると、その一致度(相関係数)は、0.3〜0.5とかなり高いものになることがいくつもの調査から示されています。この一致度の高さは、同一家族内(血縁者)の一致度よりも高いくらいなのです。これは、決して偶然ではないでしょう。

(男性が女性を選ぶよりも、女性が男性を選ぶことの方が配偶者選択では重要な決定要素になっているであろうことから、おそらく頭の良い女性は頭の良い男性を好み、頭の悪い女性は頭の悪い男性を好むことが多い…という何かがあるのでしょう。)

 

  そうなると、どうなるか? そう、前回のネズミの話と同じことになってくるわけです。つまり、頭の良い両親の組み合わせからは頭の良い子供が生まれ、逆に言うと、頭の悪い両親の組み合わせからは頭の悪い子供が生まれ、それが次の世代、次の次の世代…というように世代を重ねるごとに両極端化していくことになるのです。 おそらく、その結果なのです、現代の人類のような極端に知能の高い猿が進化してきたのは。

 

  いずれにしろ、女性が男性を選ぶときに重要な項目の一つ目として、「自分とどこか似たような形質を持った相手を配偶者として選びがち」ということがあります。

  知能についてもそうでした。性格についてもそうです。性格の良い人は性格の良い人と、性格の悪い人は性格の悪い人と、どうしても惹かれあい配偶者になる傾向があるのです。精神疾患についてもそうです。特に統合失調症傾向や自閉症傾向については、強い類別交配の傾向があることが知られています。精神的に健康な人は精神的に健康な人を、精神的に何かが病んでいる人は同じように何かを病んでいる人を、好きになり配偶者になる傾向があるのです。(そして、これらの特性には強い遺伝性があるために、性格の良い両親からは性格の良い子供が、性格の悪い両親からは性格の悪い子供が、精神的に病んだ両親からは精神的に病んだ子供が、社交的な両親からは社交的な子供が、自閉症的で対人関係が苦手な両親からは自閉症的で対人関係が苦手な子供が、できやすい傾向は明らかにあるのです。)

 

  いいも悪いもない。 私たちにはそういう傾向があり、この傾向こそが進化を一定の方向性に引っ張ってきた原動力の一つなのです。

 

 

参考書

 Merikangas KR.  Assortative mating for psychiatric disorders and psychological traits.  Arch Gen Psychiatry, 1982; 39: 1173-1180.

 

アダムとイブの争い 3

  配偶者選択 mate choiceは、決してランダムにされるわけではない…という極めて当たり前の話をします。

 

  その中でも、まず取り上げたいのが、類別交配 assortative matingの傾向です。 動物たちは、ほとんどみんな、自分とどこか似た相手を配偶者として選ぶ、という傾向です。

 

  いったいどういうことか?

 

  例えば、「キリンの首はなぜ長くなったのか?」という、学校で進化論を習う時に出てくるおきまりのストーリーで考えてみます。進化論の説明として、中学生相手になされる説明はこうです。

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(1)大昔のキリンはロバのような動物で首が短かった。ところが、遺伝子的に生まれつき、たまたま首が長いのもいた。

 

(2)首が長いキリンは、木の高いところにある葉っぱを食べることができたり、高い場所からの索敵能力に優れていたために、少しばかり生き残りに有利であった。

 

(3)生き残りに有利だった首の長いキリンは、生き残って子孫を残すことになったが、この子孫は首が長い形質を遺伝子的に引き継ぎ、やっぱり首が長かったので、生き残りに有利だった。

 

(4)こうしたことが何世代も繰り返されていくうちに、キリンたちの遺伝子プールは首が長くなる遺伝子が普通になり、そのうえ、同じメカニズムでどんどん首が長くなっていった。

 

…そんな、馬鹿な。そんな理屈じゃ、中学生は騙せても、大人は騙せません。もともとロバのような首の長さだったものが、いきなり1世代で今のキリンと同じくらい首が長くなるとは思えません。遺伝子の変異で長くなるとはいっても、ほんの少しの差だったことでしょう。そうなると、そんな少しの差で生存に有利になるとはとても思えません。さらに、もし第1世代のキリンの先祖が少しくらい首が長かったとしても、彼が首の短い嫁さんをもらったら、次の世代はまた首の短いキリンに逆戻りです。もし配偶者選択 mate choiceが首の長さに関してランダムに行われるとしたら、世代を重ねるごとに首が長くなるなんてありえないのです。

 

  そうなのです、上記の進化論は、狭義の自然選択 natural selectionをメカニズムにしてしまうと、うまくいかないのです。 そうではなく、性選択 sexual selectionに置き換えると、うまく説明できるようになります。

 

  つまり、こういうことです。

 

(1)大昔のキリンはロバのような動物で首が短かった。ところが、首が長い方が好みのメスがいた。この「首が長いオスが好き」という配偶者選択の行動パターンは遺伝子的に決定されていて、彼女の母親から引き継がれたものだった。彼女の母親の首が長いのが好きだったために、彼女の父親は首が長く、彼女も首が長かった。

 

(2)首が長いオスが好きな首の長いメスのキリンは、首の長いオスのキリンを配偶者選択して、さらに首の長い子どもたちが生まれた。子どもたちも「首が長い方が好き」という好みが遺伝していたので、子どもたちが大きくなって配偶者選択する時には、やはり、首が長い相手を選ぶのだった。

 

(3)こうやって何世代も世代を重ねるごとに、どんどん「首が長い」遺伝子がかけあわされていくことになり、キリンの首はどんどん長くなっていった。

 

  本当にそんなことが起こるのか?

 

  では、実験です。 たくさんのネズミに迷路課題を行わせて、エラーの少ない「頭の良いネズミ」と、エラーの多い「頭の悪いネズミ」にクラス分けします。そして、「頭の良いネズミ」は「頭の良いネズミ」同士、「頭の悪いネズミ」は「頭の悪いネズミ」同士で交配してみます。

(自然界では、「頭の良いお相手が好き」な遺伝子的な傾向と、逆に「頭の悪いお相手が好き」な遺伝子的傾向を持って、自然に類別交配をしている、と仮定してみたわけです。実際にネズミの世界でそういう類別交配の傾向があるかどうかは別にして、例えば人間では、知能による類別交配の傾向は確実にあることがわかっていますし、知能という特性は極めて遺伝性が強いこともわかっているのです。)

   これが何世代も繰り返されるとどうなるか?

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  結果は歴然でした。世代を重ねるごとに差は広がり、7世代も繰り返されると、「頭の良いネズミ」と「頭の悪いネズミ」は見事に二分され、迷路課題での知能という面では、もはや別の生き物になっているかのようでした。これが進化であり、多様化であり、分岐化なのです。つまり、類別交配は、動物たちをある一定の方向に極端化して進化させるために必須の原動力のようなものなのです。

 

  では、私たち人間ではどうなのでしょう?

 

 

 

参考書

Raven.  Biology, 9 th ed

アダムとイブの争い 2

  生き物が自分の持つ時間とエネルギーを、自分の身体を維持・成長させるためではなく、自分の次の世代(子ども)をつくり育てることに振り向けること。これを「親投資 parent investment」と言うのでした。 そして、当然といえは当然、この「親投資」には大きな男女差があり、女性の方が男性よりも「親投資」に費やす時間とエネルギーがはるかに大きくなる、という生まれながらの男女差別があることをお話ししました。

 

  子づくり・子育てに費やす時間とエネルギーは、男性の場合それこそ一瞬で終わってしまうことも可能ですが、女性の場合は何年も費やすことになる命がけの一大事業なのです。

 

  このため、当然といえば当然のように、配偶者選択 mate choiceにおいて、男性が女性を選ぶことよりも、女性が男性を選ぶことの方がはるかに真剣で戦略的なものになります。女性は非常に多方面から男性の配偶者(自分の遺伝子をかけあわせる相手)としての好ましさを評価し、非常に戦略的に自分と自分の遺伝子が生き残り繁栄していく方法を選択していきます。

(もちろん、女性たちはみんなが意識的にそうしているわけではありません。進化論的に獲得してきた本能的・生得的な、そして大部分は無意識的な「知恵」によって、そのように行動するだけなのです。)

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  これまでの科学的研究の結果としてわかっているだけでも、女性が男性を選ぶときには、以下のようないくつもの査定項目があります;

 

(1)生き物として健康であり、感染症に強く、ちょっとやそっとでは病気になったり死んだりしない男性であること。

(2)男性ホルモンむんむんで、男らしい身体つきをしており、左右対称の美しい身体つきをしており、顔もイケメンであること。

(3)知力、体力、精神力ともに優れており、人気者で仕事もできる男性であること。

(4)社会的地位が高く、お金持ちであること。

(5)誠実で子ども好きで優しい人であること。

(6)自分とどこか似たようなところがあること。

(7)それでいながら、遺伝子的には近縁ではないこと。(特に主要組織適合性抗原MHC=ヒト白血球抗原HLAが遠く離れていること。)

 

…多すぎです。ですが、(1)〜(5)は女性とその遺伝子を引き継ぐ子どもたちが生き残り繁栄していくうえで、非常に大切な項目です。(なぜ「美しい身体をしているイケメン」が遺伝子の生き残りに好都合なのか? という問題は、もう少し後でお話しします。)

(6)は類別交配 assortative matingの原則として有名で、要するに進化が一定の方向性に進んでいくための必須事項のようなものです。ただ、当然近親者は「自分と似ている」わけですが、あまり遺伝子的に近縁であると、遺伝子の変異による病気が増えますし、集団全体が特定の感染症に弱くなって、下手をすると一族全滅なんてことになるとまずいので、(7)の項目が加わるわけです。

 

  ちなみに、男性が女性を選ぶポイントとしては、これまでに科学的にわかっていることとして、

 

(1)女性ホルモンむんむんのかわいらしくセクシーな顔をしており、胸が大きく腰がくびれお尻が大きい(いわゆるボンッキュッボン)セクシーな身体つきをしていること。

(2)若いこと。

 

…(3)以下ほとんどありません。もうこれだけでも、すごい男女差です。

 

  いったいこれは何なのか? こうした査定基準にどういう意味があるのか? こんな厳しい査定基準をパスできる男性なんて、そんなに存在しているものなのか? 女性たちはどういう戦略で自分の遺伝子を残そうとしていくのか?

  …そうしたことを、この後でそれぞれ少し詳しく見ていきます。

 

 

参考書

Dunbar R, Barret L, Lynette J.  Evolutionary Psychology.